亜細亜大の范雲濤教授(61)=中国籍=が昨年2月に中国に一時帰国し、失踪したことが21日分かった。消息を絶つ前に中国で当局者の接触を受けており、拘束された懸念がある。日中関係筋が明らかにした。神戸学院大の胡士雲教授も昨年夏に中国に一時帰国して消息不明になったことが今年3月に判明。「スパイ」摘発を強化する中国当局が日本在住の中国人研究者を標的にしている可能性があり、日本政府は事態を注視している。

中国は昨年7月に改正反スパイ法を施行し、今年5月には改正国家秘密保護法を施行する。外国人や外国と交流のある中国人への取り締まりが強まる恐れがある。悪化している日中関係にさらなる影を落としそうだ。

複数の関係筋によると、范氏は昨年2月下旬、実家のある上海に一時帰国し、その後連絡が取れなくなった。范氏は音信が途絶える前、周囲に「当局者に同行を求められ、尋問を受けた」と漏らしていた。范氏には持病があり、適切な治療が必要だという。

范氏は大学の授業が始まる昨年4月までに日本に戻る予定だったが、現在も日本在住の家族と連絡が取れない。休職扱いとなり、他の教員が授業を代行している。

日本政府も范氏の失踪を把握し情報を集めている。政府高官は「中国の人権状況をしっかりと見ていきたい」と語った。

亜細亜大によると、范氏は都市創造学部に所属し、国際法や政治学が専門。1980年代以降、京都府や福井県などの大学に在籍し、多数の書籍を出すなど日本を拠点に研究を続けてきた。

唐の高僧で奈良時代の日本に渡った鑑真にゆかりがある中国の寺などを訪ねる「鑑真プロジェクト」を主宰し、日中の青年交流促進にも尽力してきた。

改正前の反スパイ法が施行された2014年以降、日本在住の中国人研究者が一時帰国中に拘束されるケースが相次いでいる。16年に趙宏偉・法政大教授(当時)が出張で訪中した際、事実上拘束され、一時失踪した。北海道教育大元教授の袁克勤氏は19年に一時帰国してスパイ容疑で拘束され、その後起訴された。(北京、東京共同)