「ひふみん」こと、将棋棋士の加藤一二三(ひふみ)九段(77)が、あなたのお悩み相談に答えます。14歳でプロになり、今年6月に引退するまで63年間、勝負の世界に身を置いてきました。敬虔(けいけん)なキリスト教徒として30歳で、洗礼も受けています。生きる厳しさと、聖書の教えをベースに、指導対局ならぬ、人生指南をしてくれます。今日から毎週水曜日に掲載します。

<質問>

 中学2年生の息子がまったく勉強しません。幼い頃から私たち両親が将来への不安から「勉強していい大学に行きなさい」と諭すのですが、友達とのメールに夢中だったり外で遊んでばかり。素直な一面もあり家事の手伝いはよくしてくれますが、どうしたら話を聞いて勉強に励んでくれるのでしょうか?(41歳主婦・東京都)

<回答>

 このお子さん、素直な一面もあるじゃないですか。家事の手伝いをよくするのはいいことです。親孝行ですよ。中には素直じゃなかったり「手伝ってよ」と親の側からお願いしないとしてくれない子もいます。

 中2で勉強しないといっても、義務教育で学校に通っているようですから、まったく心配には及びません。私も、社会や国語は好きでよく勉強しましたが、理数系は苦手であまり勉強をしませんでした。

 日本の教育は素晴らしく、基礎的な物の考え方や学ぶ喜びが体験できます。得意な科目があれば、それを糸口にして、素直に机に向かうこともあります。

 もし、具体的になりたい職業があるのでしたらお子さんと話し合って、普通科ではない高校に進むという選択もあるのではないでしょうか?

 私の知り合いの男性は園芸家になりました。大学へは行かず、早い段階からこの道を志しました。きっと好きな仕事だったのだと思います。得意分野があると手に職を付けて生きていくという選択肢が出てきますから。

 約200年前に生まれたイタリア人の神父で、私の尊敬するヨハネ・ボスコはもともと教育者でした。貧しい青少年に技術を教え、その適性に応じて大工の道を勧めるなど、職業教育を施していました。古くからこういう道もあるのです。

 今の日本にある大きな会社を築いた経営者の中にも、小学校しか出ていない本田宗一郎さんや、小学校中退の松下幸之助さんがいらっしゃいますよね。大学に行かなくとも、身に付けた技術は裏切りません。人生を助けてくれます。ほかの人が誰も持たない、お子さんだけの技術を身に付ける。その力を今から蓄えておくことの方が、将来大事だと思いますよ。

 ◆加藤一二三(かとう・ひふみ)1940年(昭15)1月1日、福岡県生まれ。54年8月、14歳7カ月で四段となりプロに。別名「神武以来の天才」。60年、20歳で第19期名人戦挑戦者として、タイトル戦初登場。82年、第40期名人戦で初の名人に。今年6月に数々の伝説を残して引退。30歳の時に洗礼を受けたキリスト教徒。