神奈川県大井町の東名高速道路で6月、ワゴン車の静岡市の夫婦が死亡、娘2人がけがをした事故。進路をふさいで走行車線に停止させた妨害行為などで、福岡県中間市の建設作業員、石橋和歩被告(26)が逮捕、起訴された。事故をきっかけに「あおり運転」は社会問題に。亡くなった萩山嘉久さん(当時45)の母文子(ふみこ)さん(77)が日刊スポーツの取材に応じ、苦しい胸の内を明かした。

 文子さんの心は、あの日から止まったままだ。「私より先に天国に行ってしまうなんてね。少しも考えていなかった」。毎晩布団に入って眠る前、近くに住んでいた息子夫婦がいなくなった現実を突きつけられる。「なぜ? どうして? の繰り返し。悔やんでも悔やみきれない」と目を赤くした。

 6月5日午後9時35分ごろ。石橋被告は現場の1・4キロ手前の中井パーキングエリアで、駐車方法を注意されたことに逆上し、嘉久さんの妻・友香さん(当時39)が運転する車を追跡。何度も車線変更して進路をふさぎ、追い越し車線で無理やり停止させた。自ら車を降り、萩山さん夫婦にも降りるよう要求した直後、大型トラックが追突。夫婦は死亡し、ワゴン車の中にいた娘2人もけがをした。

 旅行好きの萩山さん一家は、東京・お台場を観光し、自宅に帰る途中だった。文子さんは前日、笑顔で外出する家族を見送っていた。「もし自分が一緒に行っていれば。もしあの時止めていれば。何か違っていたのかもしれない」

 ニュースでは、石橋被告が実況見分中にあくびをする姿や、笑顔を浮かべる様子が放送された。事故から1カ月前の5月に3件、事故から2カ月後の8月に1件の交通トラブルを起こしていたことも分かっている。

 文子さんは「反省していないのだろう。絶対に許せない」と語気を強める。今でも、狭い道路でスピードを出した車が通ると「石橋に狙われているのではと思ってしまう。便利だと思っていた車が、怖くなってしまった」という。

 事故から半年以上が経過したが、今も自宅や夫婦の墓には花束を持ち、線香を上げる人が多く訪れる。「この前は、事故を知った嘉久の同業者の方が、15年も会っていないのに大阪から来てくれた。今は、あの子の周りの方々に支えられている」と少しだけ頬を緩めた。

 生き残った2人の孫娘のためにも、あおり運転がなくなることを願っている。「あの子たちも、将来は車を運転するかもしれない。危険な運転の被害は、いつ誰に起こるか分からないですから」【太田皐介】