西日本豪雨の被災地では各地で気温30度を超える中、安否不明者の必死の捜索が続いた。11日、広島県呉市で新たに4遺体が発見されるなど、共同通信の集計で死者は12府県で計174人、安否不明者は計87人に上る。豪雨では、愛媛県大洲市も大規模な浸水で甚大な被害を受けた。

 西日本豪雨で甚大な被害が出た愛媛県大洲市の山間部では土砂崩れが多発し、孤立状態の集落もある。大洲市手成(てなる)の建築業田中忠典さん(64)は7日朝、ダーン、バリバリという音で異常に気付いた。外に出ると、玄関前の道が20メートル以上にわたって崩落。自宅裏の斜面の上に建つ隣人の家の前の地面も割れ、地滑りのように田中さんの家の方へ1メートルほど落ちてきていた。

 「おおごとになった」。同居する母チヨコさん(87)を、通りがかった知人と2人で抱きかかえ、家側に約30センチだけ残った足場を渡って、崩落現場から30メートルほど離れた公民館に避難させた。

 きれいな水に恵まれた集落で、地域の多くの家が、沢水を水源からホースで引き、水道としていた。その水道も斜面のいたるところで起きている地割れや小さな崩落で切れていた。田中さんは1人で山のやぶの中に分け入って、水源まで上り、切れていたホースを3日間かけてつなぎ直し、この日になってようやく、公民館近くまで水を引き直すことができた。

 田中さんの自宅前の崩落現場からさらに山を登った先には、40世帯ほどが暮らす。集落へ続く別の細い道はこの日までに一部復旧したが、ほとんどの人が使っていた集落の生命線の道路は、田中さん宅前の道だった。集落内の他の場所でも、道路崩落が起きている。

 今後の降雨や、台風の状況次第では、自宅も崩落する危険もある。それでも「土地を離れろ言う人もおるが、長いこと住んどるとこじゃったら、離れられんじゃろ。そう簡単なもんじゃない」。復旧のめどは立っていないが、「できることを自分でやってくしかない」と言い、1人で作業を続けた。