大阪府の学校法人「森友学園」問題の一連のスクープを報じた後、異動を命じられたとして昨年8月に31年勤めたNHKを退局した、大阪日日新聞論説委員・記者の相澤冬樹氏(56)が日刊スポーツの取材に応じた。相澤氏は自らの体験を元に、官邸が内閣記者会に対し東京新聞記者の質問を制限する趣旨の文書を送付した問題について「おかしな状況になってきているというのは間違いない」と語った。主な一問一答は、以下の通り。

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-今回、スポーツ紙の取材を受けた理由は

相澤氏 スポーツ新聞に取材していただき、記事を出してもらえるなら、すごくありがたいと思うのは、これまで全く届いていない読者層に届くんじゃないか、ということですね。今はまだ、正直、本にしても一部の人の手元にしか届いていない感じがするんですよ。森友学園問題やNHK(の報道)のことに関心を持っている人は、そもそも限られていますから。普段、全く目にしないという人たちが見てくださった時に、ちょっとでも関心を持ってもらえたらな、幅を広げたいなと思っています。

-森友学園、加計学園問題は、ソーシャルネットワークを中心にインターネット上では、まだまだ問題視されているが…

相澤氏 むしろ「まだモリカケやってるの?」みたいなことを言う人がいますよね。国会で野党が追及しても、むしろ批判されて…なんか、おかしいよなぁと思って。まっとうなことを言っている人が批判されて、おかしなことをして、言っている人が称賛されるみたいな逆転現象が、しばらく前から起きる感じがしていて…森友学園問題は、その象徴ですね。

-なぜ、全部終わったことにしてしまっているのだろうか?

相澤氏 検察の捜査が全部、不起訴にしたというところが大きいですよね。あれ、起訴されていたら裁判になって続きますからね。だから、やっぱり、あれを不起訴にしてしまったというのが大きくて。でも、これも言ってみれば、ある種の政治力ですよね。東京の方からの圧力で、大阪に全部、不起訴にさせたと、僕は思っていますけども。そういう形で、全てをなかったことの方に持っていっちゃったわけです。それを世間の人も、ある分、受け入れちゃっているところがあって、報道機関も、まさにそういう状態になっている。そういうことに対して、これは終わっていないんだから、ちゃんと追及しなければいけないということを私は言い続けたい。

-現政権に対しては、記者の質問に対して圧力をかけるなど批判もある

相澤氏 起きていることを見ていると、おかしな状況になってきているというのは間違いないですよね。ただ…私は、安倍官邸やNHKが、けしからんという風に話をもっていきたくなくてですね。自分がやろうとしたことは、あくまで、これは一体、何でこんなことになったんだ、という事実の追及なんですよね。それはごく当たり前の、記者なら誰でもやることであって、その背後に何があるんだろう…もちろん、官邸とか、いろいろなものがあるのかも知れないけれど、ちゃんと解明しないと分からないわけじゃないですか? 問題は、分からないのに、なぜそれを抑えにかかったのか? それは官邸が嫌がるからですよね。なぜ、嫌がるのか…何かがあるからですよね。何もないんだったら、別に圧力をかける必要はないわけですよね。だから、やっぱり何かあるんだろう…と思うわけですよ。それでますます、これを解明しなきゃいけないと思ったわけですけどね。

-何かがあると思うなら調べる、取材するのは記者として当然

相澤氏 事実の追及をするということが軸にあるだけで、その結果、何が出てくるかは分かりませんけども、それに対する圧力があったのは間違いないし、それがNHK上層部からのではなくて、NHK上層部に対して別な圧力があるんだろうなと感じていたんですよね。

-17年7月に財務省近畿財務局が森友学園側に出せる上限額を聞き出したスクープを「ニュース7」で放送されて数時間後に、東京の報道局長から大阪の報道部に怒りの電話があった

相澤氏 激怒するなら、放送直後でしょう。何だ、これ? って。時間差があるということ自体が、何かがあったことを感じさせますよね。あの時のニュース原稿は、あえて分かりにくい書き方をしたから、報道局長は最初、意味合いが分からなかったんじゃないかと。あとで「あんなの出されたら、背任やってるみたいじゃないか?」って言われて、ヤバいということになったんじゃないか…その時間差だと想像していますけど。

-まだ森友学園問題を取材している最中だった18年5月に、番組をチェックする考査部への異動の内示があった

相澤氏 僕は31年間、NHKにいて、それまで感じなかったようなことが、最後の2年間に集中して、すごくおかしなこととして起きましたし。その集大成が、自分が記者の人事を外される出来事で、しかも、まだ検察の背任の捜査が続いていて、終わっていない真っ最中に、担当記者を呼び出して「お前に記者を辞めてもらう」と言ってくるという違和感。その前から圧力がいろいろあったから、次の人事で何か良くないことが起きそうだなぁと予感はしていたから、呼び出された瞬間に、異動の内々示だと分かったし、行ってみたら現に「記者を外す」と言われた。その時、最初に思ったのは「あぁ…組織に切られちゃった」ということ。31年間、NHKのために仕事をしてきた、それなりに成果も挙げたと自負していたのに、その組織から記者を外すという格好で切られちゃった。しかも、行き先は考査部でしたが「今後は考査の仕事に専念してもらう」と、わざわざ言われてね。普通、そんなこと言わないですから。

-当時の率直な感想は

相澤氏 これは報道は2度とさせない、携わるなよ、という意味だと分かったので、言われた瞬間に記者を続けるためにNHKを辞めようと思ったんですけど…同時に切られちゃったことに対する感慨というか、センチメンタルな思いみたいな…ね。何というか、ずっと付き合っていた女の子に振られちゃったような、すごい切ない気持ちでしたね。

NHKは昨年12月の会見で、相澤氏の著書「安倍官邸vs.NHK:森友事件をスクープした私が辞めた理由」(文芸春秋社)に「虚偽の記述がある」と反論している。

次回は相澤氏が、古巣のNHKについて、変質してしまったターニングポイント、NHKの素晴らしさと現在の問題点などを語る。【村上幸将】