急転直下の“決裂”だった。トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は28日、ベトナムの首都ハノイで2日目の米朝首脳会談に臨んだが、北朝鮮の非核化をめぐり合意に至らず、予定した合意文書の署名を見送った。トランプ氏は、正恩氏から非核化の見返りに「完全な制裁解除」を求められたが、応じなかったことを明かした。成果獲得へ前のめりのトランプ氏の足元を見た正恩氏だが、逆に追い込まれた形だ。次回会談は未定。「成果なし」という想定外の結末は、国際社会も驚かせた。

   ◇   ◇   ◇

正恩氏との「合意なき会談」を終えたトランプ氏は、予定を2時間前倒しし、午後2時(日本時間同4時)すぎから会見に臨んだ。最初に言及したのは、正恩氏との会談ではなくインドとパキスタンの問題。前日には、この日の会見で成果をアピールすることに意気込んでいただけに、ばつの悪さがにじんだ。

トランプ氏は「合意文書へ署名も考えたが、今回合意することは適切ではないと考えた」と説明した。理由を説明したのは、ポンペオ国務長官。「1歩を踏み出すよう求めたが、彼にその準備ができていなかった」と述べた。米側は北朝鮮の完全非核化を求めたが、正恩氏は、寧辺(ニョンビョン)の核施設の廃棄を見返りに、北朝鮮に対する制裁の「完全解除」を要求したという。しかし、北朝鮮は他にも核施設を持っており、米側はリストの提出も求めていた。完全非核化の担保を取ることができず、米国は席を立った。

トランプ氏と正恩氏は初日の会談で、友好ムードをアピール。正恩氏は「最善を尽くす」と述べ合意への期待もあったが、一夜明けたこの日、トランプ氏は「我々は急いでいない」と予防線を張った。当初から前のめりで、結論に見合わない大幅な譲歩も懸念されたトランプ氏を、ポンペオ氏や北朝鮮強硬派のボルトン大統領補佐官らが、押しとどめた側面もあったようだ。トランプ氏は「非常に建設的な時間を過ごせた。物別れではない」と強調。「金委員長と友達になった。彼には大きな存在感がある」と、未練もにじませた。

事前協議は難航し、トランプ氏は正恩氏とのトップ会談で、中央突破をもくろんだ節もあるが、安易な妥協は、日本など同盟国の批判も招く。トランプ氏は「溝があるのは確かだ。埋めることはできる」とした上で、「早く進めるよりも、正しいことをしたい」と、冷静に語った。

一方、正恩氏は非核化の準備はできているか記者に問われ、「その意志がなければ、ここに来ていない」と強調したが、実際は双方の準備不足が大きく影響したと言わざるをえない。「合意しなかったのは私の決断とは言いたくない」。ビジネスマンでディール(取引)を重視するトランプ氏は、成果を出せずに屈辱なのか、会見後は早々と帰国の途に就いた。次回の会談は未定。米側は協議の継続を明言したが、米朝関係は再び不透明になった。