「テニスコートの恋」で知られる天皇、皇后両陛下のなれそめの場となった長野・軽井沢の「軽井沢会」テニスコートは、当時の面影を残したまま、今も会員制で使用されている。おふたりは1989年の即位後も、何度もテニスコートに足を運ばれた。両陛下は思い出の場所としても、お立場からは難しくなった友人や地元住民との触れ合いの場としても、ずっと大切にされている。

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明治創業の軽井沢の老舗、土屋写真店3代目店主・町田靖彦・夏子夫妻(ともに81)が両陛下の軽井沢滞在を振り返った。

天皇陛下は皇太子時代、本屋で立ち読みされたり、自転車で運動具店に立ち寄り着替えて、軽井沢会テニスコートに向かわれたという。夏子さんが08年にコートでプレーする両陛下をフェンス越しに見ていると、皇后陛下が近寄ってきて「今のはアウトでしたか」とおたずねになった。「アウトでした」と話すと、審判に「アウトですって」と伝えられた。

03年に天皇陛下が過去に通われた運動具店店主が「陛下とお話ししたい」とSPにお願いすると、許可が下りなかった。夏子さんが店主に代わってSPに「陛下に聞いてください」と懇願すると、陛下は快諾され、「お元気でしたか」と懐かしそうに声を掛けられたという。夏子さんは「即位後、距離は離れたけど、垣根を取り払われて、逆に庶民と近くなった感じがする」と振り返る。さらに「テニスコートは昔なじみの方や庶民との触れ合いの場でもあるのでは。気軽にいろんな人とおしゃべりできるのは軽井沢だけ」と話す。

「天皇皇后両陛下と軽井沢 土屋写真店の記録」(国書刊行会)を4月に出版した。靖彦さんは「ご公務や被災地を訪問された際の表情とはまた違って、軽井沢では笑顔で柔らかいお顔ばかりです」と話した。