10連休の終わりとともに、退職代行サービスの需要が急上昇している。史上最長のゴールデンウイーク(GW)は自身の人生を見つめ直し、退職を決断するのにも最適となったのか、代行会社にはGW中から申込者が増え続けているという。会社の人と顔を合わせることなく、面倒な退職の手続きを丸ごと請け負ってもらう、令和元年注目のサービスの活況ぶりを追った。

史上初の10連休は、退職の決断も後押しするものだったようだ。退職代行サービスを行う「汐留パートナーズ法律事務所」(東京都中央区)には連休明けと同時に、10件の依頼が舞い込んだ。「普段は1日に1件あるかないか。連休中にも問い合わせの電話やメールがあって予想を上回る」と佐藤秀樹弁護士(42)は「10連休退職」に当惑する。

同事務所では今年1月から本格サービスをスタートした。パワーハラスメントやブラック企業、少人数の会社のため「辞めづらい」などの理由から退職する会社との交渉を弁護士に依頼する正社員が多い。だが、「今回の連休明けの依頼ではサービス業の方が約2割でした」(佐藤弁護士)という。GWはレジャー、飲食業界にとって、かき入れ時。「連勤」や残業となった従業員も少なくない。「夜10時過ぎから朝にかけての相談もあった」(同事務所)というから残業明けや、夜勤明けに退職を決意したケースもありそうだ。

退職代行は、平成の終わりごろから注目され始めた。退職の意思を退職願などの書面や口頭で直接伝えることなく、代わって会社に伝えてくれる。退職書類や社員証返却なども郵送などで済ませ、出社する必要もない。オフィス街では今、就職活動中の大学生の姿が目立つが、平成最後の今年4月に入社したばかりの新入社員が5月1日の令和改元を待たずに「スピード退職」を依頼してくるケースも少なくなかったという。

新入社員でなくとも、佐藤弁護士によると、代行依頼には特徴がある。4月1日だけで10件の依頼があった。「4月1日は有休が新たに付与される会社が多い。そのタイミングで退職して、有休を全部消化する方が多い」。年度の節目にいきなり、となれば人事担当者ならエープリルフールかと思いたいところだろうが、そんな社内の風当たり、空気を読んで会社の人と顔を合わせずに済む代行を利用。令和時代には、こうしたケースも増えてきそうだ。

今日13日は、令和に入って13日目。佐藤弁護士は、代行依頼のヤマ場になると予測する。「普段から月曜日の依頼は多い。さらに長い連休明け後、勤務した直後ですから」。もちろん退職の事情は人それぞれだが、人事担当者にとっては退職代行サービスからの一報で多忙の令和元年となるかもしれない。【大上悟】

◆退職代行サービス 2017年(平29)8月から本格的にサービスを開始した「EXIT(イグジット)」(東京都渋谷区)が草分け。それ以降、代行業者は増加している。昨年からは弁護士、司法書士、行政書士による代行サービスも増えている。代行費用は正社員5万円前後、アルバイト・パート3万円前後が一般的だが、「正社員2万9800円」と安さを売りにする会社も。弁護士資格を有していない場合は退職する会社との交渉が弁護士法で禁じられている「非弁行為」にあたる可能性もある。