トランプ米大統領は6月30日、現職の米大統領として初めて南北軍事境界線を越えて北朝鮮側に入り、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と、板門店で米朝首脳会談を電撃的に行った。

前日29日、ツイッターで板門店訪問を示唆し、わずか1日で3度目の米朝会談を仕立てた。トランプ流の力業に、正恩氏も「ツイートを見て驚いた」と述べた。日本を含めて世界をビックリさせた会談は、非核化交渉の一助になるか、世紀の大パフォーマンスで終わるのか。

   ◇   ◇   ◇

トランプ氏は30日午後3時45分ごろ、板門店の韓国側施設「自由の家」から警護役も付けず、1人で北朝鮮側に歩みを進めた。境界線の手前で止まると、北朝鮮側から歩いてくる正恩氏の姿があった。

2人はまず、境界線越しに握手。「境界線を越えてほしいか」「そうしてくれれば初の米大統領です」。正恩氏の言葉に、トランプ氏はあっさり境界線を踏み越えた。「ここで会えるとは思わなかった」と拍手する正恩氏と十数歩歩いた後、2人は韓国側に戻った。

会いに来てくれたトランプ氏に、笑顔で応じた正恩氏は異例の「ぶら下がり取材」にも対応。「行動そのものではなく、良くない過去を清算し、良い未来を築こうという歴史的な大統領の英断を見てほしい」と述べた。韓国側では文在寅大統領も待機し、米朝韓の3首脳が初のそろい踏み。前代未聞の光景が短時間で次々と繰り広げられた。

たった1日で会談の準備が進んだ。G20出席で大阪にいたトランプ氏は日本時間6月29日朝、正恩氏との面会の可能性をツイート。すべてここから始まった。北朝鮮側も異例の早さで前向きな姿勢を表明。事前に行われた両首脳による親書の交換も、布石だったとみられる。ただトランプ氏のつぶやきは米政府にも寝耳に水で、準備開始はツイッター発信後。トランプ流の「思いつきつぶやき外交」に常識は通用しなかった。

当初2分の面会予定は、約1時間の首脳会談に。「いい気分」「とても前向きなことが起きている」と興奮気味のトランプ氏に、正恩氏も「大統領のツイートを見て本当に驚いた」と述べ「我々のすばらしい関係があれば、1日でこんな出会いができる」と、強調した。トランプ氏は「出会った日から好きだった」と語り、正恩氏のホワイトハウス招待計画もぶち上げた。

トランプ氏は会談後、数週間内に非核化に向けた実務者協議の再開を表明。ただ今年2月のベトナム・ハノイ会談が物別れに終わったのは実務者協議の難航が一因で、再開しても実効性ある内容になるか、不透明だ。そもそも今回の電撃会談は、来年の大統領選を控えるトランプ氏と、対等に話をしてくれるトランプ氏との関係断絶だけは避けたい正恩氏の利害が一致しただけの側面も否めない。

先月29日の会見で、正恩氏が自身のツイッターをフォローしていると述べたトランプ氏。会談後は「彼が来なければ気まずかった。大打撃だった」と安堵(あんど)したように漏らし、帰国の途に就いた。