日本テレビ系「NEWS ZERO」のメインキャスターを18年9月まで12年務めた、関西学院大教授の村尾信尚氏(63)が、8カ月ぶりにメインキャスターとして帰ってくる。参院選投開票日の21日に文化放送で放送の報道特番「斉藤一美 ニュースワイドSAKIDORI! 開票スペシャル」(午後7時50分)に出演し、第2部「-~決戦124議席」でラジオのメインキャスターに初挑戦する。村尾氏が日刊スポーツの取材に応じ、キャスターと大蔵省(現財務省)OBとしての官僚、両方の目から令和初の参院選を斬る。【取材・構成=村上幸将】
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-ラジオのメインキャスターに初挑戦
村尾氏 文化放送の方から話があった時は、いろいろなこと、違うことをやってみたいと思っていたところでした。迷いはあったんですけど、「斉藤一美 ニュースワイドSAKIDORI!」にコメンテーターで2、3回出させてもらい、社会の問題に真剣に取り組もうという雰囲気を局全体に感じた。ラジオは音声だけでやっていくので、さらに難しく、できるかなと思ったけれど、文化放送の社会に向き合う熱意が感じられ、この人たちだったら一緒にできると。「NEWS ZERO」を始める時は、若い人にもっと社会の当事者意識を持って欲しかった。それが「NEWS ZERO」の原点だと今でも思っています。
-参院選は秋の消費税増税が争点の1つ。野党は撤廃、凍結を主張し、財源として、所得税や法人税を累進課税にする案も
村尾氏 それが現実的かというと、もっと議論しなくちゃいけない。世界各国では会社の税率をドンドン、下げていく動きをしている。会社は本社をどこに置くかを自由に選ぶことができるから、どうしても法人税率の低いところに会社を置く。そうなると、日本だけ取るところ(法人税)を取ると言った場合、日本に会社が来てくれるのかという問題がある。お金持ちからたくさん取ればいいと僕も思いますが、海外に逃げ回る人がいた時に、かえって日本に税収が来なくなる。いずれにしても、ちゃんと議論すべきですよ。
-「老後2000万円問題」をはじめ公共サービスの財源など不安だらけ
村尾氏 皆さん、年金を含めていろいろなサービスを政府から受けていて不満がいっぱいあると思うんですよ。だけど、それを回すお金を払っているんですか? となると、実は税金、社会保険料という形で皆さんが払っているのは60~70%くらい。30~40%の財源は、皆さんが嫌だと言うから仕方がなく、政府は次の世代に、借金という形で付け回しにしている。
-子どもたちが背負う借金は、どれくらい?
村尾氏 日本は国内総生産(GDP)が540兆円の一方、国と地方の借金は1000兆円。国民の数で割ると、借金は1人頭700万円。子供は投票権はないし年金も受けていないのに、借金700万円の返済が待ち構えているわけです。ひどいアンフェアだと思います。政治家は子どもたちにツケを回そうとしている。子どもたちがかわいそうじゃないか? というのが僕の原点なんです。
-議論が足りない
村尾氏 「NEWS ZERO」の12年間で、安倍さん(晋三首相)とは相当、言い合いになったけれど、1つは財政赤字をどうするんだ? ということ。子供や次世代への付け回しは良くないからやめて、消費税を増税するならしっかり議論して、今の世代に負担を求めていくことをしないとダメ。それなのに、自民党は消費税を10%に上げることにしたけれど、安倍政権になってから2回、先送りしながら衆院を解散して選挙した。国民は喜びますけれど、そんなことをしていて良いのか? というのが僕の問題意識。財政再建の立場からが主だったけれど、消費税は増税すべきだということは前々から言ってきました。
-次世代への借金はもっと考えるべき問題
村尾氏 今の子どもたちから「なぜ私たちに既に700万円もの増税を課しているの?」と言われた時に、僕たちは反論できない。じゃあ、払うだけの余裕が、これからの日本経済に出来てくるかというと…ないでしょう? 日本の人口は、去年だけで43万人、減りました。国立社会保障・人口問題研究所によると、50年後の日本の人口は8800万人くらいになり、今から4000万人くらい減る試算がある。働く人の数が減ってくれば、高度成長はできず、税収も集まらないのに借金だけがこんなに積み上がったら、今の子どもたちが成人した時、どういう世界があるか…。東京オリンピック・パラリンピックが過ぎた後になって、こういう景気がどこまで続くかを含めて、大変なことが待っていると思います。
-どういう世界を予見している?
村尾氏 税金を払うための所得ももらえない。年寄りばっかりで支えていかなければいけない。苦労と親や祖父が作った借金で、日本にいてもしょうがない…そんな真っ暗な日本の未来が、僕には見えるんですよ。そこをにらんで、子供や孫たちがこの国に残って、ちゃんと安心して暮らすことが出来るか、これからどうするんだという中長期的な議論をしなければいけないのに、与党も野党もメディアもほとんどしない。危機感を覚えています。
-どうすればいいのか
村尾氏 下り坂で経済も伸びていかないけれど、子どもたちのことを考えれば僕たち自身、生活を切り詰めなきゃ、しょうがないだろうと。今は国が何をしてくれるじゃなくて、国あるいは未来の子どもたちのために何が出来るのかから、もう1回、何を負担するのかを考えた方がいい。
-年金受給者は年金が安く、その中での消費増税は困るという声がある
村尾氏 若い人を含めて、そういう感情を持つ人は多いと思うんですよ。じゃあ、何で少なくなっちゃったか? 足りないものを多くしたいんだったら、誰かが負担しなければいけない。じゃあ、どこから取るんだという議論をちゃんと、政治もメディアも今までやるべきだったのに、やっていない。今になって、どんどん、どんどん、つけが回っていて、どこかで堤防が決壊するんですよ。日本経済が成長しないと払えないんだから、その観点から外国人労働者を多く雇って、とにかく1つ、景気浮揚の大きなきっかけにすればいいじゃないか? という議論も出てくるべきだろうし、あるいはインバウンドで、どんどん海外から旅行客が来ているので(お金を)もっと使ってもらって、税収を上げていこうという議論もやるべき。
-「老後2000万円問題」で市井の人々の目が政治に向く中での参院選
村尾氏 投票に行かないと、組織政党は有利になる…つまり自分が投票しない、ということはニュートラルということじゃなくて、組織がガッチリしている政党にとって有利だよ、ということも考えて欲しい。投票に行かない=無力はどんなに積み重ねても0。でも1票だけだったら確かに変わらないけれど、微力はいっぱい集まれば最有力になる。支持する政党、政治家が本当はあればいいんだけど、仮にないとしても、今の与党がおごっているから、反省の意を込めて野党に投票しよう、という考え方もある。野党も大したことは言っていないけれど、少しでも勝たせてあげると、与党も緊張を持って、これからやらないといけないなという効果もある。
-その他の論点は
村尾氏 文化放送の特番でも言おうと思っていますが、昨年5月に交付、施行された「政治分野における男女共同参画推進法」が施行されて初の国政選挙となります。各政党の候補者を男女同数、半分半分でやろうという法律で努力規定なんですけど、全立候補者の中で女性は3割に満たない。法律を作って義務、努力しましょうねと形だけは整えているのに、実際の選挙になったら女性の皆さんは立候補されていない。女性の皆さんの活躍と口先だけは言っているけれども、実態としてはどうなんだと。いろいろなことを議論とか言うんだけど、深いところまでの議論が全然ないし、したがらないですよね。
ラジオでのメインキャスター初挑戦を前に、村尾氏の声にひときわ力がこもった。
◆村尾信尚(むらお・のぶたか)1955年(昭30)10月1日、岐阜県高山市生まれ。78年に一橋大経済学部を卒業し大蔵省(現財務相)に入省。主計局主計官、理財局国債課長などを歴任。82年に外務省に出向しニューヨーク日本総領事館副領事。95年に三重県に総務部長として出向。02年に環境省に転出後、退官。03年に三重県知事選出馬も落選し、関西学院大教授に就任。06年10月から18年9月まで「NEWS ZERO」メインキャスター。