2020年東京オリンピック(五輪)開幕まであと1年となる24日、東京都が朝の通勤手段として船の活用を目指す社会実験を開始する。

五輪本番に向けた混雑緩和策の試行期間が22日に開始したが、その一環として行われる。実験開始前日の23日、報道陣向けの取材会が行われ、記者が一足早く「舟旅通勤」を体験した。結論は「意外に、あり」だ。

   ◇   ◇   ◇

航路は東京・日本橋船着き場から晴海付近の朝潮運河船着き場を結ぶ約4・5キロ。乗り込んだ日本橋船着き場は、銀座や東京駅にも近いメトロ三越前駅の出入り口から約1分。日本橋駅からは3分。どこへ行くにも便利な場所にある。

所要時間は約30分。出発後、しばらく首都高速の下を走る。都会ならではの光景だ。何度か橋をくぐるが、船の上部が橋に触れそうなほど間隔が狭い場所もある。なかなかスリリングだ。その後、高層マンション群が見えたりと、流れゆく景色に飽きなかった。乗船中は前後にあるデッキのいすにも座ることができる。

船内の2人掛けシートは赤、黄、緑とカラフル。思ったよりもゆったりとしていた。窓は比較的大きく、船内からの眺めも良い。船は時速約15~20キロでゆっくりと進み、揺れをあまり感じなかった。すれ違う船の波を受けて揺れる場合もあるが、朝の通勤時間帯にすれ違う船は少ないという。

都の担当者によると、実験用の船は小型船6種類で定員は約40人。個人的にいいと思ったのは、船にもよるが、座席付近に電源コンセントと飲み物ホルダーが設置されていたこと。スマートフォンを充電しつつ、飲み物を手にしながら街並みを眺められる。利便性と優雅な気分を両立できる。

屋根付き船だったが、屋根なしの船も1種類あるという。雨が降った場合、船に用意されたポンチョで雨をしのぐことになる。傘は隣の乗客に当たるので、基本的に使用できない。ポンチョを着ても、スーツやカバン、手に持つスマホなどが雨にぬれないか、気になって落ち着かない。正直、スーツ姿にポンチョは間抜けな感じに見える。屋根なし船は観光にはいいが、通勤には不向きな気がした。

8月2日までの実験では、平日午前7時半~9時までの間、15分間隔で計14便を運航する。無料だが、事前予約制で各便先着順。立席はない。都担当者は「東京ならではの景観を味わいながら、確実に座れて、オフィスまで行けること」をメリットとした。今後の課題に料金設定を挙げた。

電車移動より約10分多くかかるそうだが、ラッシュに巻き込まれず、確実に座れて目的地に行けるのはいい。事前予約を面倒に思わず、かつ料金と天候次第では、東京観光気分の「舟旅通勤」もあり、と感じた。【近藤由美子】

○…「舟旅通勤」の予約はインターネットと電話(受付は祝日を除く月~金曜午前10時~午後5時まで)でできる。実験は土日を除く8日間行われ、計4000人が乗船可能。23日現在で予約したのは1500人。日本橋、勝どき行きともに、始発の午前7時半など早い便は満席もある。

○…22日に開始した東京五輪に向けた混雑緩和策の試行期間では、国や各省庁、東京都が、自宅などでの「テレワーク」や時差出勤などに取り組み、企業にも協力を要請している。開幕1年前の24日や交通量が多いと予想される26日は、首都高速道路の入り口4カ所を終日閉鎖。ラッシュアワーを避ける「オフピーク通勤」促進で、JR東日本や東京メトロなどで数日間、早朝に臨時列車を運行する。混雑緩和策の試行期間は9月6日まで。その後、来年の東京五輪本番に向けて、効果を検証し、効果的な手段を検討していく。