ジャーナリストの伊藤詩織さん(30)が、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(53)から15年4月に性的暴行を受けたとして、1100万円の損害賠償を求めて起こした民事訴訟の判決で、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)は18日、山口氏に330万円を支払うよう命じた。伊藤さんは16年の刑事裁判で不起訴処分とされた末に民事裁判で勝訴し「長かった」と涙した。一方、山口氏は判決に不満を訴え、控訴する考えを示した。

17年10月に著書「Black Box」で実名を公表し、2年以上戦った末の勝訴に、伊藤さんは「長かった…長かったです」と涙した。東京地裁は「虚偽の申告をする動機がない」と主張を認め、著書の出版も、自らの体験を公表し社会で議論されることで性犯罪被害者を取り巻く法的、社会的状況の改善につながる公益目的だと評価した。

一方、山口氏の行為について地裁は「酩酊(めいてい)状態で意識がなくなった伊藤さんに意思に反して性交渉を行った」と認定。著書で名誉を傷つけられたと1億3000万円の損害賠償を求めた反訴も棄却した。

伊藤さんは判決後、勝訴の瞬間の思いを聞かれ「うれしいと喜ぶ気持ちには、なかなかならなかった」と複雑な心情をのぞかせた。ただ、刑事裁判で不起訴となったことを受けて起こした民事裁判は「(不起訴だったため)どんな証拠、証言があったか全て知ることが出来なかったが、訴訟を起こしたことで公に出来る証言、新しい証言、言い分は、しっかり聞けた」と意義を強調した。

伊藤さんの行動は、男性からのセクハラに世界中の女性が怒りの声を上げた「#MeToo」運動にも大きな影響を与えたと評価されている。伊藤さんは「『#MeToo』より『#WeToo』にしたらどうだろうか? 誰もが被害者、加害者、傍観者にならず社会全体で考え、自分事として欲しい」と訴えた。海外では被害者が不同意の性行為がレイプとして処罰される国がある。来年に刑法改正の見直しがなされることを踏まえ「(刑法は)直さなければならない部分がたくさんある」と主張した。

山口氏は控訴の意向を示し、翌19日は都内の日本外国特派員協会で双方が会見を開き、早くも“法定外バトル”が幕を開ける。伊藤さんは山口氏について「自分自身に向き合い、どんな問題があるかまで一緒に向き合ってくれたらうれしい」と語った上で「勝訴したからってゴールではない」と今後に向け、固い決意を口にした。【村上幸将】

◆伊藤詩織さん裁判 伊藤さんは米国の大学に在籍した13年12月に、アルバイト先のバーで山口氏と知り合った。正社員としての就職先を求めるメールを送信したことをきっかけに、帰国した15年4月3日に山口氏と会食した際、意識を失い、ホテルで暴行を受けたと主張。準強姦(ごうかん)容疑で警視庁に被害届を提出した。同6月には山口氏の逮捕状が発行されたが、逮捕直前に取り消されたという。一方、山口氏は合意に基づく性行為だと反論した。東京地検は16年7月、嫌疑不十分で不起訴とした。伊藤さんは、翌17年5月に不起訴不当を訴えたが、東京第6検察審査会も同9月、不起訴を覆すだけの理由がないとして不起訴相当と議決した。