新型コロナウイルスの感染拡大が、日本のアニメ業界を直撃している。近年、テレビアニメの制作本数の増加から海外、特に中国のスタジオに作画などの制作を委託する制作会社が増加。その中、コロナウイルスの影響で中国への物資の送付や人の往来が難しくなり、制作に支障が出ている。日中の制作関係者が24日、日刊スポーツの取材に応じ、危機的な現状を明かした。

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近年、日本のアニメは中国に依存する面が増していた。50代の日本人制作関係者は「作画などを委託する比重が高まり、全体で半分以上の会社は中国に委託する状況じゃないですか」と説明する。中国にスタジオを作ったり、逆に中国の会社が日本に支社を作ったり、日本の制作者を好条件で雇用するケースも少なくないという。中国の配信大手「ビリビリ動画」が日本のアニメの公式配信を始め、その権利料収入も大きな収益となっていた。

中国に本社があるアニメ制作会社で働く30代の中国人男性は、1月8日に上海を訪れ、同15日に移動した韓国・ソウルで「武漢が危険だ」と耳にした。同社は作画のベースを紙で作り、航空便で上海に送っていたが、中国政府が国内外の移動、渡航の制限を始めたことで難しくなった。

同社がスタジオを置く江蘇省無錫市は、台湾の関係者が数十年前に制作会社を立ち上げたことをきっかけに、現地に入った日本人が技術指導し、アニメ産業が広がったと言われている。数日前から上海への素材の発送が可能になり、現地スタッフも30人ほどスタジオに入ることができたが、制作体制は縮小し、日本への完成した作画の戻りも遅く、枚数も少ない。他社では制作が進まず放送できなくなる、業界用語でいう“落とす”作品も出てきているという。

日本動画協会によると、18年のテレビアニメの制作タイトル数は332作で前年から8減った。一方で制作分数は約1万5000分増の13万808分。1話30分11話の作品で考えると、年間30作の増加に当たる。制作分数が増える中、日本でも感染拡大が進めば、日本から人や素材を送るのも困難になる可能性が高い。中国人男性は「武漢市政府の対応は誤り、感染は拡大したが、中国政府は管理職の更迭など封じ込めに徹底的に動いた。日本政府の対応、判断の遅さには疑問を感じる」と首をかしげた。【村上幸将】

◆無錫市 中国東部にある中国経済の中心地の1つ「長江デルタ」にある江蘇省の都市。人口は常住人口が約657万人、戸籍人口は497万人。運河に囲まれており、古くから物流の拠点となり、最盛期には日本企業が約1200社、進出した。87年に尾形大作が日本レコード大賞金賞を受賞した「無錫旅情」の舞台としても知られ、太湖の湖畔には中国語の歌詞と作詞・作曲の中山大三郎さんと尾形の名を刻んだ歌碑が建っている。14年には、清明橋大運河が国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産リストに登録された。

○…海外への委託が進む背景には、日本国内で進む働き方改革の影響も少なくないという。ある関係者は「大手の制作会社の人は『うちできちんと作るには、週5日じゃ出来ない。プロデューサーが週6日は現場にいないと回らない』と言っています」と完全週休2日は難しいと語る。近年、アニメ制作者が、メディアを通じて長時間労働、薄給など過酷な制作環境を訴えるケースも少なくない。同関係者は「(世間から)たたかれてしまうから労働環境をきちんとすれば、質が高い作品作りが難しくなる、矛盾した状態」と吐露した。