映画界最大の祭典といわれるアメリカのアカデミー賞。今年は韓国の「パラサイト 半地下の家族」が、大きな注目を集めました。英語以外の映画では初となる作品賞を始め4部門受賞の快挙でした。日本では昨年末に公開、現在でも、観客動員でベスト10に入るヒットとなっています。韓国映画はなぜ世界で認められるようになったのでしょうか。

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◆98年「文化大統領宣言」

昨年、日本で映画館に行った人の数は1億9491人、韓国は2億2463万人でした。韓国の人口は5185万人で日本の約半分ですから、韓国の人の映画好きが分かります。

でも、好きなだけで質の高い映画が作れるわけではありません。大きな作品になると、100人を超えるスタッフが何カ月も掛けて撮影する映画にはお金がかかります。韓国には政府や大企業が映画作りを応援して来た歴史があるのです。

98年、当時の金大中(キム・デジュン)大統領が、21世紀は「文化産業」を国の中心産業にすると「文化大統領宣言」をしました。日本は自動車など工業技術が優れているといわれますが、同じように資源の少ない韓国は、映画など文化産業に力を入れることにしたのです。99年からの5年間で2500億ウォン(約220億円)もの国のお金が文化産業につぎ込まれました。

◆サムスングループ大きい役割

04年頃から日本や中国でドラマや音楽の韓流(はんりゅう)ブームが起きたのはこの成果です。一方、映画では大企業のサムスングループが果たした役割も大きいのです。「パラサイト」のチーフプロデューサーは、創業者の孫娘ミキ・リーさんでした。

リーさんはグループ会社のCJエンターテインメントの副会長として95年にロサンゼルスを訪れ、スティーブン・スピルバーグ監督の映画などで知られる製作会社ドリームワークスに、3億ドル(約325億円)の大金を提供しました。CJ社の年間売り上げの20%を上回る大金です。

ドリームワークスが作った映画をアジアで公開することでお金もうけにつなげようとしたのはもちろんですが、韓国で映画作りに関わる人たちがこの会社で研修を受けることができるようになったのです。それが韓国映画の質向上に大きな役割を果たしました。

アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4冠に輝いた「パラサイト」のポン・ジュノ監督は、受賞スピーチで「CJエンターテインメントに感謝しています」と話しました。この言葉は、いっしょにステージに立ったリーさんに向けられたものです。

韓国映画は、政府、大企業の20年にわたる応援に支えられているのです。

◆相原斎(あいはら・ひとし) 1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒沢明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、仏カンヌ映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。韓国映画のマイベスト1はポン・ジュノ監督「殺人の追憶」。