JR東日本・山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」の開業から1カ月がたった。

先月14日の開業当日は新型コロナウイルスの感染拡大防止へ向けて外出自粛の呼びかけにもかかわらず、利用者が5万4000人に達した。

当日の日付の入った切符を買い求める人の行列は最長3時間半待ち。コロナ感染拡散防止のために、避けるべき「3密」のうち、密集、密接の「2密」のそろった危険な空間だった。

あれから1カ月、コロナウイルス感染拡大は収束することなく、17日には東京都の感染確認が201人と、初めて200人を超えた。

この日の高輪ゲートウェイ駅の午後3時前、山手線内回りの電車から同駅の1番ホームに降りた。

この時間帯は、通常なら外回りの営業マンがさっさと仕事を終えて夜の街に繰り出すべく、スパートをかける。だが、緊急事態宣言による自粛もあり、電車の中はガラガラ。ホームに降りた人も、数えるほどだった。

ホームに人はいない。エスカレーターで2階の改札階に向かうが、人影もまばら。改札口は山手線の内側、都営地下鉄浅草線の泉岳寺方面しかない。改札口を出たところで、1人で駅の写真を撮っていた33歳のOLに話を聞くと「会社が自粛で休みになったので、あまり人がいないだろうと思って来てみました」という。

20代の男性2人組は「仕事が休みになって暇だから川崎から来た」と言う。1人はマスクを着用していたが、もう1人は着用せずに気にするそぶりもない。

駅3階にあるスターバックスコーヒー高輪ゲートウェイ駅店は、先月23日にオープンしたばかり。ビジネス利用に特化したスマートラウンジを導入しているので、パソコンを開こうと試みたが、今月13日から休業していた。

反対側の海側にある芝浦中央公園にいって見ようと思ったが、ルートがよく分からない。田町駅寄りに大きく迂回(うかい)していかなければならないようで、断念した。

地上に出ようとエレベーターに乗る。前に1人いたので密接を避けるべく“時差ベーター”して、やりすごす。1人でエレベーターに乗り込むと、息を切らしながら女性が乗り込んできた。こちらが、軽くせき込むと、驚いてこちらをのぞき込む。

新型コロナウイルスに感染するのが怖いので、さっさと帰ろうと泉岳寺駅から電車に乗るか、少し離れたところから渋谷行きのバスに乗ろうかと考えながら歩いていると泉岳寺の前に出た。

この近辺には、今から30年近く前に菊池桃子の所属事務所と日本新党の本部があって、よく来たのだが泉岳寺に入ったことはない。過去に何回も映画、ドラマで見て、原稿も書いている忠臣蔵の赤穂義士の墓があるお寺だ。境内に入ると人は2、3人。お年寄りと犬の散歩の有閑マダム風。義士の会館や店舗は閉まっていた。

奥の方に忠臣蔵の登場人物のお墓が固まっていた。浅野内匠頭(あさの・たくみのかみ)に、正室の瑤泉院(ようぜんいん)のお墓。そして義士たちのお墓は、その団結を示すべくまとまっている。大石内蔵助、大石主税、堀部安兵衛、赤垣源蔵、大高源五といった名前が並ぶ。新しい花も供えられている。

その瞬間。1人の女性が義士のお墓に歩いてきた。運命的な出会い! ということはなく、まるでこれから果たし合いをするように2メートルのソーシャルディスタンスを取って慎重にすれ違った。

時は元禄15年12月14日…。西暦で言えば1702年。義士たちは翌年、切腹を命じられた。300年以上たって、令和の時代になっても赤穂浪士の人気は高いようだ。

開業して1カ月の高輪ゲートウェイ駅と300年以上前の赤穂義士の眠る泉岳寺。新しい時代と歴史の重さを感じた。【小谷野俊哉】