東京都・練馬区にある創業約50年の老舗とんかつ店で4月30日夜、火災が発生し、店主の男性(54)が死亡した。男性は、区の東京オリンピック(五輪)聖火ランナーにも選ばれていたが、新型コロナウイルスの影響で延期が決定。加えて、政府の緊急事態宣言によって、4月13日から3代目として受け継いだ店の臨時休業を余儀なくされ、「店を閉める」という声を聞いた人も。近隣住民らは男性が思い悩んでいた様子だったと、証言した。

警視庁光が丘署によると、火災は4月30日午後10時ごろ発生。近隣住民から「店から煙が出ている」と通報があり、発覚した。男性は火災発生から1時間半後、死亡が確認された。出火原因などは、現在も捜査中としている。

3日も、多くの人が店の前を訪れ手を合わせた。男性と20年以上の付き合いがある、近くに住む女性は「衝撃。奥さんと娘さんを悲しませる人ではなかったのに何で…」。火災発生時には「(救急隊の人の)心臓マッサージや大きな声かけ」が聞こえ、今でも脳裏に焼き付いていると話した。

商店街のホームページによると、男性は100以上のマラソン大会に出場。女性は昨年12月「聖火ランナーに決まったんですよ」と男性から報告を受け「おめでとうございます」と祝福したという。

店のホームページにも「東京オリンピック聖火ランナーに選ばれました!皆様、ぜひ応援をお願いします!」と記されていた。店に定休日はなかったが「店が閉まっている時は、(男性が)マラソンかライブに行っている時だった」と、周囲が受け止めていたほどだった。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、東京大会の延期が決定。男性はきまじめな性格だったといい「今のコロナ(感染拡大)の状況で、(東京大会に)多額のお金を使い、延期にしてまでも開催するのかというような声に頭を悩ませていた」といい「延期になったけれど、来年も走れなさそうだ」とも、不安を漏らしていたという。

店は臨時休業中だったが、女性は先月26日に「夫婦から『店を閉める』と報告を受けた」とも話した。火災数日前に見かけた時には「(男性は)顔色が悪く、青ざめていた。声をかけられないくらい思い詰めていた様子だった」という。

2年前に亡くなった息子が仲が良く、自身も長い付き合いがあったという70代女性は「いつも明るいし、悪いところがない」と男性の人柄をしのび「こんなことで亡くなるなんて思いもしなかった。今でも信じられない」と混乱した様子。妻と娘3人がいたと話し「娘さんが店を手伝っていることもあって、本当に良い家族だったのに…」と、声を絞り出した。

新型コロナウイルスの影響で、全国の商店街は大打撃を受けている。とんかつ店がある商店街で、時短営業を続ける別の店の店主は「うちは良い方だけど、(売り上げは)7割減」と話す。商店街組合の担当者は、男性について「商店街の取り組みにも尽力してくれた。夏の打ち水イベントの時にはポスター配りなども率先してやってくれた」と話した。営業再開に向けて消毒液が必要と要請された際には、理事長が届けたといい「5月1日から商売をやると聞いていたのに…」と、信じられない様子だった。【佐藤勝亮】