トンネルの出口が全く見えない中、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言は延長初日を迎えた。延長を発表した4日の安倍晋三首相会見。教育評論家の尾木直樹さんはブログに「総理の記者会見に失望」「明らかにオロオロしていました」と書いた。この人はどう思っているのか。先月、安倍首相の星野源の「うちで踊ろう」とのコラボに「この国の首相は貴族か」とツイートした社会福祉士の藤田孝典さん(37)。電話でインタビューした。

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-連休中の2日、3日に労働・生活総合相談ホットラインを開設したそうですが、どのくらい相談が寄せられましたか

藤田さん 埼玉では147件でした。どんどん追い詰められていて、所持金が5万円以下という人が32人、1万円以下という人が23人いました。「家賃が払えない」「電気代がない」。その日のうちにカンパで集めた基金を届けなければいけない人もいました。3月半ばくらいまでは「まだ預貯金でなんとか」とか余裕があったのに、急速に悪化しています。連休明け、生活保護に付き添わないといけないケースが何件もあります。

-出口戦略が見えないままの緊急事態宣言延長になりました。大阪府の吉村洋文知事は「トンネルの出口の指標をきっちり示すのが政治の役割。それを示さず延長と言うのは無責任」と失望感を口にして、独自の「大阪モデル」を発表した

藤田さん 切実感がないのかなと思います。星野源さんとのコラボも国民のどの層に対して発信しているのか、全く見えなかった。現場はもう戦場のようになっていて、NPOも弁護士も奔走しています。「10万円はいつ給付されるのか」「本当に給付されるのか」、差し迫った声が日に日に上がっているのに…。

-マスクすら届いていません

藤田さん 遅すぎますよ。

-テレワークで働き方が変わりました

藤田さん 清掃員や運送業、介護に携わる人、保育士さん、スーパーの店員さん、3密のコールセンターで働く人…どうしても現場に出なければならない人たちで、私たちの生活は支えられています。自宅でパソコンと電話があれば何とかなるテレワークができない人への目配りが足りないんじゃいかと思います。安倍首相はステイホームを訴えますが、幅広い層に対する配慮、勇気づけがない。

-尾木直樹さんはブログで「総理の記者会見に失望」「説得力もない会見」「明らかにオロオロしていました」「忖度(そんたく)につぐ忖度のガードで守られて外の世界が見えなくなっているのかもしれない」と書いています

藤田さん 同じ印象を持ちました。具体性がないから、安倍首相が会見するたびに不安になります。5月31日まで踏ん張れば、トンネルの先に明かりが見えるのか。「頑張りましょう」という精神論ではなく、具体的に示してほしい。テレワークができる恵まれた環境にある人は感染の恐れも少ないですが、現場で働かなければいけない人は感染の危険があります。非正規雇用という人も多い。励ましもなく、「頑張れ」だけでは、どうしても前向きな評価はできないんです。(聞き手・中嶋文明)

◆藤田孝典(ふじた・たかのり)1982年(昭57)7月19日、茨城県高萩市生まれ。さいたま市を拠点に生活困窮者の支援活動をしているNPO法人「ほっとプラス」代表理事。反貧困ネットワーク埼玉代表。聖学院大客員准教授。著書に「下流老人」「貧困クライシス」「中高年ひきこもり」など。