将棋の最年少タイトル挑戦者、藤井聡太七段(17)が20日、大阪市の関西将棋会館で指された第33期竜王戦3組ランキング戦決勝で、師匠の杉本昌隆八段(51)を破り、史上初の「4期連続優勝」の新記録を達成した。弟子入りから7年、前回に続いて2度目の師弟対決を制し、成長ぶりを示す「恩返し」を果たした。藤井は、棋聖戦とのダブルタイトル挑戦をかけて23日に指される永瀬拓矢2冠(27)との王位戦挑戦者決定戦に、弾みをつけた。

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関西将棋会館で最もグレードの高い「御上段(おんじょうだん)の間」。午前10時、先手の藤井がいつものようにお茶を一口飲み、初手を指した。杉本は、棋士が重要な対局の時に身を包む和装姿で臨んだ。時折、口をへの字に曲げ、気合の入った表情を見せた。

杉本が選んだ戦型は得意の四間(しけん)飛車。全力で負かしに来た師匠に、藤井は、時間を使いながら、丹念に手を読んだ。「盤上では対等であり、ライバル」。勝負師としての教えを忠実に守った。

中盤まで一進一退の攻防が続く。終盤に入ると、際どい攻め合いになり、藤井が厳しい手を連発。投了に追い込んだ。終局後、藤井は「こういう決勝の大舞台で対局できるのを非常に楽しみにしていた。一手一手をしっかり指すことができた」と振り返った。

小学4年の夏に弟子入りしてから7年。その成長ぶりを示す2度目の「恩返し」を果たすことができた。盤を挟み、師匠から勝負師としての大事なものを学んだ。この日、杉本は和装、昼食はうなぎ丼を注文するなど“勝負手”を連発した。藤井は言う。「すごい気合を感じました」。将棋盤を挟み、藤井は相手のミスを期待せず、最善を追求する姿勢を見せ続けた。盤を挟み、師匠と無言の会話を交わしていたようだった。 

これで竜王戦ランキング戦は負けなしの20連勝。デビュー1年目の17年に最下級の6組を制し、18年に5組、19年に4組で優勝して昇級。師匠を破り、史上初の「4期連続優勝」の新記録を達成した。

杉本の師匠である故板谷進九段の悲願は「東海地方にタイトルを」。藤井は棋聖戦で最年少タイトル挑戦者となり、第1局で勝利。棋聖戦とのダブルタイトル挑戦をかけて23日、永瀬拓矢2冠(27)と王位戦挑戦者決定戦を戦う。28日の棋聖戦第2局は和装デビューの予定だ。「もう将棋で教えることはないかもしれないけど、着物のたたみ方は教えることはできる」。師匠の言葉に笑みを浮かべた17歳。悲願のタイトルへ弾みをつけた。【松浦隆司】

◆竜王戦 将棋の8大タイトル戦の1つ(ほかは名人・叡王・王位・王座・棋王・王将・棋聖)。今期は全ての現役棋士のほか、女流棋士4人、奨励会三段1人、アマチュア6人が出場。予選はランクに応じて1~6組まで分けられる。豊島竜王への挑戦権をかけた決勝トーナメントに出場できるのは1組5人、2組2人、3、4、5、6組は各組優勝者の計11人。トーナメントの組み合わせもランク上位棋士ほど優遇される。優勝賞金は将棋界最高の4400万円。