第163回芥川賞・直木賞の選考会が15日、都内で開かれ、直木賞は馳星周さん(55)の「少年と犬」が受賞した。

馳さんは1997年、デビュー作の「不夜城」で初候補になって以来、今回が7度目のノミネート。昨年から夏を過ごしている故郷の北海道・浦河町で同級生やサラブレッド生産牧場の人たちと連絡を待った馳さんはオンライン会見で「7回もノミネートされたということは6回落選しているわけだから、みんなには『落選しても落ち込むのだけはやめてよ』と言ったんですけど、みんな、僕がG1レースを勝ったように喜んでくれています」と喜びを表現した。

受賞作は、東日本大震災で飼い主を失った犬の「多聞」が日本列島を九州まで旅し、さまざまな人と出会う6編の短編連作集。大都会の暗部を描くノワール(暗黒)小説で知られる馳さんにとって異色の作品になる。選考委員から「犬を出すのはずるい」という声も上がったことを聞くと、馳さんは「ハハハ」と笑い、「動物を出す小説はずるいと思います。でも書きたかったんです。許して下さい」と頭を下げた。

2匹の犬を飼い、愛犬家としても知られる馳さんは「動物は神様が人間に遣わせてくれた生き物だと思います。動物がいなかったら人間はもっと傲慢(ごうまん)になる」と話した。東日本大震災では現地に行き、惨状に声を失った。熊本地震、毎年のような豪雨と自然災害が続いている。「僕たちの暮らし方に起因しているのでないか。コロナも人が経済を追い求めた結果、東南アジアでひっそりしていたウイルスが出てきた。人間はどう生きるべきか、これからも小説で書いていきたい」と答えた。

「不夜城」で受賞してもおかしくなかったのに、受賞まで23年半かかった。そんな質問には「直木賞を受賞するかしないかを考えて小説を書いてきたわけではないので、あのとき取っていればと考えることはなかったです。一生懸命(小説と)向かい合ってきたから」とサラッと実にかっこよく答えた。

◆馳星周(はせ・せいしゅう)1965年(昭40)北海道生まれ。長野県在住。書評家などを経て96年「不夜城」でデビュー。吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞する。98年「鎮魂歌-不夜城2-」で日本推理作家協会賞を受賞。99年「漂流街」で大藪春彦賞を受賞。主な作品に「ダーク・ムーン」「生誕祭」「トーキョー・バビロン」などがある。