今回も突然の辞意表明だった。安倍晋三首相(65)は28日、官邸で会見し、辞任を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、国民の負託に応えられなくなるのを避けたかったという。病院を受診した24日に決断。新型コロナウイルス対策もまだ途中。葛藤があったと目を潤ませた。

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第1次政権の辞任は、自身の所信表明に対する代表質問の直前。今回も突然の辞意表明だ。持病の悪化で、2度とも自ら政権に突然幕を引いた。党総裁の任期は1年残る。17日の病院受診後、関係者に聞いた「体力の限界なのでは」という言葉が、こんなに早く現実になるとは思わなかった。

首相は10代から潰瘍性大腸炎を患っていたが、再び総理の座を目指すに当たり、病気を克服していた。12年9月、自民党総裁選出馬に当たってインタビューに応じた際、持病に関する、突っ込んだ質問にも率直に答えた。「画期的な新薬(アサコール)が承認されて、劇的に改善した。この2年は正常値。発病以来、なかったことです」。

政治家は自身の病気を語りたがらないが、首相は冗舌だった。「内視鏡で腸の中をしょっちゅう見てきたが、自分の腸はこんなにきれいなのかと。情報公開してもいい。見たくないかもしれませんが(笑い)」。自信がみなぎっていた。

そうして就任した第2次政権。国政選挙で勝ち続け「安倍1強」を築いた。しかし近年は森友学園や加計学園問題、「桜を見る会」での公私混同が露呈。長期政権を率いる首相らしい堂々とした物言いは、徐々に消えた。野党に追及され、時に声を荒らげて反論する姿を、何度も国会で見た。こうした批判や追及もストレスにつながったと指摘する声も聞いたが、そうだろうか。その都度謝罪や説明で疑惑を完結させていれば、誰もがストレスを感じることはなかったはずだ。

8年前、率直な心情を口にした安倍首相。でもこの8年の間に、首相の言葉が「変質」していくのを、感じざるを得なかった。(文化社会部次長 中山知子。第1次政権から取材)