コロナ禍で日本の演劇が一時中断しましたが、世界では中止が続いています。ミュージカルの本場である米ニューヨークのブロードウェーや英ロンドンのウエスト・エンドでは、34年もロングラン中の「オペラ座の怪人」、ディズニーアニメのミュージカル版「アナと雪の女王」の再開断念を発表しました。今回は日本のミュージカルの歴史と現状、人気の2・5次元ミュージカルを紹介します。

  ◇   ◇   ◇  

ギリシャ悲劇は紀元前に始まり、歌舞伎も江戸時代から400年以上続いています。ミュージカルが現在のような形になったのはブロードウェーで1927年「ショウボート」が最初とされ、歴史はわずか93年ですが、今では日本の演劇人口の6割はミュージカルが占めると言われます。

【ミュージカルの黎明(れいめい)期】 日本で本格的なミュージカル上演は63年「マイ・フェア・レディ」でした。67年に森繁久弥さん「屋根の上のヴァイオリン弾き」が初演され、森繁さんは86年まで900回も演じました。69年には市川染五郎(現松本白鸚)「ラ・マンチャの男」が上演され、半世紀後の19年に上演回数1300回を超えました。「ウエスト・サイド物語」も68年に宝塚歌劇、74年に劇団四季も上演。ブロードウェー生まれのミュージカルが幅広く上演されるようになりました。

【ロングランが始まった】 日本初のロングラン公演は83年の劇団四季「キャッツ」でした。それまでは1カ月の公演が多かったのですが、「キャッツ」は専用の仮設劇場を建設して1年間の公演を行い、その後も大阪、名古屋、福岡などでロングラン上演されました。東宝も87年に帝劇で「レ・ミゼラブル」の5カ月ロングラン公演後も再演を重ね、来年5月からの上演も決まっています。ミュージカルと言えば、それまではブロードウェーでしたが、「キャッツ」「レ・ミゼラブル」、88年「オペラ座の怪人」92年「ミス・サイゴン」はロンドン発で、ブロードウェーとロンドンが2大潮流になりました。

【ディズニーがミュージカルに進出】 映画に続いて演劇界に進出したディズニーが、初めて手がけたミュージカル「美女と野獣」を劇団四季が上演したのは95年でした。四季では98年から「ライオンキング」のロングランが続行中で、上演回数は国内最多1万2000回を超えています。ディズニー作品も03年「アイーダ」13年「リトルマーメイド」15年「アラジン」16年「ノートルダムの鐘」と続きました。新作「アナと雪の女王」上演はコロナ禍の影響で今年9月から来年6月に延期されました。

【各国のミュージカルが日本にも上陸】 ウィーン発の大作「エリザベート」が96年に宝塚歌劇で上演後、00年には東宝版が帝劇で上演され、瞬く間に人気作品になりました。その後も「モーツァルト!」「レベッカ」などウィーン発ミュージカルが続き、フランス発「ロミオとジュリエット」韓国発「フランケンシュタイン」も上演され、グローバル化が進んでいます。

【2・5次元ミュージカルが世界にも進出】 日本のオリジナルミュージカルは劇団四季「李香蘭」「夢から醒めた夢」、音楽座「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」などがありましたが、00年代に入ると、「アニメ大国」日本ならではの2・5次元ミュージカルが人気です。漫画、アニメの2次元と、舞台の3次元の間にある作品として、2・5次元ミュージカルと言われ、03年「テニスの王子様」をはじめ、「NARUTO」「ハイキュー!!」「弱虫ペダル」「刀剣乱舞」が上演されました。イケメン俳優が出演し、女性を中心にファンが多く、18年は約280万人の観客動員でした。「刀剣乱舞」は18年NHK紅白歌合戦に登場し、「NARUTO」はアジア公演も行いました。

○…世界中からミュージカルファンが集まるブロードウェーとロンドンでは、3月から劇場が閉鎖され、年内の公演中止が決まっています。ロンドンで86年初演以来、34年ロングランを続けた「オペラ座の怪人」の再開断念を発表。ブロードウェーでも、世界的にヒットした人気アニメのミュージカル版で、18年3月に始まった「アナと雪の女王」の打ち切りが発表されました。

◆林尚之(はやし・なおゆき)78年入社し、主に演劇・演芸を担当。故森繁さんの「屋根の上のヴァイオリン弾き」大千秋楽、劇団四季「キャッツ」初日、「ジーザス・クライスト=スーパースター」ロンドン公演などを取材。「ラ・マンチャの男」「キャッツ」「レ・ミゼラブル」はそれぞれ30回以上は見ています。