ノーベル文学賞が8日、スウェーデン・ストックホルムで発表され、作家の村上春樹氏(71)の受賞は今年もならなかった。 米国の女性詩人ルイーズ・グリュックさん(77)が受賞した。

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▽「春樹研究」の第一人者で村上氏と同じ神戸市出身、大学時代は村上氏と同じ寄宿舎「和敬塾」にも入寮経験もある宮脇俊文氏(67=成蹊大特任教授)の目

またも村上春樹のノーベル文学賞受賞はならなかった。下馬評での順位は3位ということだったが、これはあくまでもノーベル賞の選考委員会には関係のない人間による人気投票みたいなものである。実際に候補者のリストに名を連ねていたかどうかは関係者以外、誰にもわからない。それにもかかわらず、毎年大騒ぎをされてきた村上の心中は決して穏やかではなかったに違いない。事実、彼の作風にも発言内容にも少なからず影響はあった。

最近、村上はラジオのDJで話題を呼んでいる。それはファンにとってはたまらないだろう。作家の生の声が聞けるのだから。しかし、僕は同じ声でも文章に込められた「声(ヴォイス)」を聞きたいと思う。文章を通して村上の訴えを聞き取りたいと思う。つまり彼の作品が読みたいのだ。 こうした彼の変化が、ノーベル賞騒ぎによるストレスから来るのか、70歳を超えた年齢のことが関係しているのかどうかはわからない。今年の7月には新作『一人称単数』が出たとはいえ、どこかかつての村上がフェードアウトしていきそうな悪い予感がしてならない。これが単なる杞憂(きゆう)であって、彼の新たな境地へのステップであることを心から願うばかりである。いずれにせよ、受賞のいかんにかかわらず、村上文学の価値は不変であることを我々は忘れてはならない。