新型コロナウイルス感染が急拡大する中、首都圏中心に緊急事態宣言が再発令され、初めての週末を迎えた。WHO(世界保健機関)元職員で、公衆衛生学が専門の英キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司教授(54)が9日、取材に応じ、今回の緊急事態宣言の効果は「限定的だ」と危機感を募らせた。また、国内外の現状では、今夏に延期された東京五輪・パラリンピックの開催は「非常に難しい」との見方を示した。

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-緊急事態宣言再発令をどう評価している

「政府のメッセージは中途半端です。店舗の時短営業やイベント中止など、効果が限定的です。やれることは全部やると言ったのに、11カ国・地域からのビジネス関係者などの入国を継続するなど、整合性も取れていない。自粛しろと言っている人たちが会食して、国民も我慢しなくていいなと思ってしまう。国民に自粛疲れやコロナ慣れもあります。危機意識の共有を国民とできていないのが非常に心配です」

-感染急拡大の中での宣言再発令は遅かった

「後出しして申し訳ないのですが、12月中に出すべきで、年末年始休みを利用して外出禁止くらいのレベルでやらないと、遅かったという印象があります」

-今後の感染状況はどうなるとみている

「今回のような中途半端な内容だと、急激に感染者が増えることは収まるかもしれませんが、減らない状況が続くと思います。1カ月では感染者数は下がりきらないと思います」

-世界から日本のコロナ対策はどう見られている

「最初の緊急事態宣言では国民の努力もありタイミングも良く、うまく抑え込んだのですが、基本をやっていない。感染対策は3つ。1つはワクチンで免疫をつけること。しかし、承認も接種開始も日本は他国と比べて遅れています。2つ目は感染経路の遮断。マスク着用、手洗い、3密を避けるなど、政府は国民の努力をお願いするだけです。3つ目は感染源の特定と隔離。コロナの1番の問題は無症状の感染者が多いこと。検査の網の目を広げ、無症状の人も含め検査しないと止まりません。そこを日本はやっていない」

-他国と比べ、なぜ日本で感染急拡大している

「同じアジアで、台湾やベトナム、ニュージーランドなど、抑え込んでいる国はたくさんあります。第3波が日本とほぼ同時期に来た韓国は検査と隔離を徹底して、感染者数は下がっている。日本は早期に徹底的に抑え込もうという姿勢がないし、検査と隔離が抑えられてきたので、今、大変な状況になっていると考えられます」

-経済とコロナの両立は難しい

「経済のために感染対策をしないとダメです。感染拡大早期に徹底的にコロナを抑え込むのが大事な経済対策です。ウィズ・コロナではなく、ゼロ・コロナにシフトすることが求められていると思います」

-状況的にみて、東京五輪は開催できる

「緊急事態宣言発令自体がコロナを抑え込んでいないということ。そして世界はパンデミックの真っ最中です。このままでは両面からしても非常に厳しい」

-どのような環境になれば、五輪が開催できる環境と言える

「(西村康稔経済再生担当相が宣言解除目安とした)500人は多い。出口戦略が非常に大事です。宣言を解除しても、新規感染者が非常に少ない状態にしておかないといけない。ワクチンを打ち始めているなど、コロナを制圧しているメッセージがなければ、誰も安心して日本に来ません。海外からの感染者をどう防ぐか、市中感染をどう収めるか。観客制限より、まずそういった議論が前提です」

【取材・構成=近藤由美子】

◆渋谷健司(しぶや・けんじ)1966年(昭41)3月6日、東京都生まれ。東大医学部卒。米ハーバード大で公衆衛生学博士号取得。WHO(世界保健機関)勤務、東大大学院教授などを経て現職。WHO事務局長上級顧問、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)科学諮問委員も務める。英国在住。