森喜朗氏・東京オリンピック(五輪)・パラリンピック組織委員会長の進退問題に積極的に関与してこなかった菅政権が、新たな会長人事に“介入”するような動きを見せ始めた。森氏が11日に辞意を固め、自身に近い川淵三郎氏を後継指名したと報じられると、SNS上で批判が拡大。約20年前、森氏の首相就任時にも起きた「密室裁定」の再来に加え、森氏に近い人物がトップでは「院政」にもつながりかねず、大会開催に向けた国民の支持獲得や、機運醸成に水を差しかねないと判断した官邸の危機感があるようだ。

関係者によると、「後継川淵」一報後、政府与党内では疑問の声が浮上。川淵氏が森氏の話として、菅義偉首相は川淵氏を了承したほか、女性や若い人の起用案も口にしたと述べたことにも不快感が広がり、官邸の怒りに火を付けた。

首相はこれまで、森氏の発言は批判しても進退は組織委員会の判断として踏み込まず、野党に批判されても静観してきた。森政権で起きた森おろしへの「加藤の乱」では加藤紘一氏と行動をともにした首相だが、今も政界に影響力を持つ森氏には配慮があったとみられる。ただ謝罪会見後、世論の批判が拡大。官邸は組織委側に水面下で働きかけを始めた。加藤勝信官房長官は10日、武藤敏郎事務総長に危機感を伝達。辞任判断の後押しになったとされ、後継指名問題でも同様の接触が続いたようだ。

首相は東京大会成功に強い意欲を持っている。森氏の発言にとどまらず、後継会長まで辞任する森氏が指名するとなれば、世論の反発は確実だ。女性や若い新会長の起用という首相の意向は、世論を気にせざるを得ない苦しさの裏返しでもある。【中山知子】