人が集まると密になる。じゃあ、法事もできないね-

新型コロナウイルスとの付き合い方を築地本願寺が取り組みはじめた。5年前に築地本願寺のトップ、宗務長に就任した安永雄彦(雄玄)さん(67)は、元銀行マンでヘッドハンターだった。「コロナ時代にお寺はすべてのライフプランに対応できる場所になる」という論を持つ。お寺の可能性はどこまで広がるのか?

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法事に対する安永さんの考え方はオンラインだった。新型コロナウイルス対策ではなく、宗務長に就任した5年前からオンライン法事を打ち出していたのだ。

安永さん もう各所から猛反対の嵐。お寺に足を運んで、仏様に礼拝が基本、念仏を唱えないととか、そんなもの申し込みはないとか…完全否定されました。

安永さんは苦笑いを浮かべながら振り返った。ただ、今年は様子が違った。オンライン法事は「多忙でまとまった時間がとれないけど法要はしたい」という国内外の単身赴任者らビジネスマンの要望に応えるというものだったが、コロナ禍では、誰もが外出できなくなり、オンライン法事の必要性が浮上した。

2、3年目の若手職員が率先して取り組み、昨年5月11日からホームページ(HP)に掲載して募集した。築地本願寺で法事を実施して、その様子をインターネットで中継。依頼のあった家族はZoom(テレビ電話アプリ)を使って読経と法話の約30分の法要を参拝するという内容だ。料金もうやむやにせずに「冥加(みょうが)金3万円以上(10月1日から5万円以上)」と打ち出した。これまでに65回執行され、現在予約も5件入るなど大人気なのだ。

お寺らしからぬネットの活用も盛んで動画配信サイト「ユーチューブ」に「築地本願寺チャンネル」という番組も開設し、法話や講座を流し「お坊さんのお話」という番組は昨年4~7月までに23本を配信。計4万4140人が視聴した。

安永さん お寺のネット化が目的ではない。町の中のコミュニティーの場としてのお寺でありたい。コロナな時代ですから。

2年前、ラグビーワールドカップ(W杯)が日本で開催され、多様性を意味するダイバーシティーという言葉が注目された。生まれた国の違う日本代表に列島が熱狂した。

安永さん 仏様のお心には分け隔てはありません。婚活も、子育ても、就活も、終活も、充実した余生も、いろいろなものが入り交じるダイバーシティーの実現。そんな築地本願寺でありたいですね。【寺沢卓】

◆安永雄彦(やすなが・ゆうひこ) 1954年(昭29)5月10日、東京都出身。開成高-慶大経済学部卒。ケンブリッジ大学院博士課程修了(経営学専攻)。三和銀行で21年勤務後、外資系大手エグゼクティブ・サーチ会社(ラッセル・レイノルズ)を経て“ヘッドハンター”として独立。その一方、47歳で西本願寺の通信制・僧侶養成講座に入り僧侶となる。2015年7月、築地本願寺の宗務長に就任。