東京電力福島第1原発事故から10年が経過する。東京電力がこのほど、日本記者クラブ取材団に原発構内を公開。日刊スポーツから近藤由美子記者が参加した。

放射線量は低減され、作業環境は改善されたが、厳重な健康管理に新型コロナウイルス対策も加わった。汚染水から放射性物質を取り除いた「処理水」が増え続け、まもなく上限に達するが、処分方針は決まっていない。課題は山積みだ。

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灰色や薄い青色の大型タンクが至るところに立ち並ぶ。数の多さが異様に映った。汚染された地下水や雨水がセシウムなどの放射性物質を除去後、処理水としてタンクで保存される。タンク総数は1061基。容量は計137万トン分だが、すでに124万トンの処理水が貯蔵されている。

20年末にできた新タンクエリアを見学した。タンクの側面に貼り合わせた溶接の跡が見えた。タンクは直径12メートル×高さ12メートル。同エリアは道幅が狭く大型車両が通れないため、タンクの材料を持ち込み、その場で制作したという。設置場所確保にも苦慮していることがうかがえる。現段階で今後のタンク増設計画はない。

20年の汚染水発生量は1日平均約140トン。3号機のカバー建設や天候の関係で19年より減ったが、タンクが満杯になるのは22年秋以降。処理水をどうするかは差し迫った大きな問題だ。国が海洋放出を検討しているが反対の声も多く、方針が発表されていない。

作業員は約4000人。厳重な放射線量管理に加え、コロナ対策も行う。毎日、スマートフォンのアプリで家族も含めた健康状態を報告する。ある職員は「コロナ感染してクラスターが発生したら廃炉作業に影響が出るので、みんなピリピリしている」と明かした。

2月13日に福島県で最大震度6強を観測した地震で、多少の影響はあった。大型タンク53基の位置がずれた。1号機の原子炉格納容器内の水位が低下し、今後注水量を増やす方針。担当者は「注水する水は循環させ再利用しているので、汚染水が大きく増えることはなく問題はない」と強調した。震災直後の余震が落ち着いた後、これほど大きな地震はなかったという。

震災と事故の痕跡は今も残る。まだ、地面に倒れたままの鉄塔の一部があった。放射線量は毎時1マイクロシーベルト以下地点もあれば、水素爆発した3号機横では毎時385マイクロシーベルトと高い数値を示していた。

目標工程では廃炉までに今後20~30年かかる。ある職員はこの10年を「早かったような、まだまだのような。半々です」と振り返った。大型廃棄物保管庫など、まだ造成中の施設もあった。道のりの遠さと険しさを実感するばかりだ。【近藤由美子】

○…廃炉作業は一進一退だ。今年開始予定だった2号機の溶融核燃料(デブリ)取り出し作業を延期した。コロナ感染拡大による英国での機器開発の遅れが原因。東電は工程遅延を1年程度にとどめたい意向だ。一方、2月28日に3号機の使用済み核燃料プールに残っていた燃料566体の取り出しが完了した。炉心溶融(メルトダウン)した1~3号機では初めて。1~6号機の燃料取り出しは31年に完了する予定。プールに残った燃料取り出しも大きな課題の1つで、1、2号機には計1007体ある。

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