東日本大震災から11日で10年と1カ月。岩手の老舗旅館は、震災の被害に加え、新型コロナウイルス感染拡大で、苦境が続いている。

震災で人口の1割が死亡・行方不明と大きな被害を受けた岩手県大槌町。江戸時代から続く「小川旅館」は津波とその後の火災で骨組みしか残らなかった。「小川旅館 絆館」として仮再建され、12年12月から別の場所で営業している。

コロナ拡大から売り上げが半分以下になり、宿泊客がゼロの日も多い。おかみの小川京子さん(60)は「『Go To トラベル』の恩恵も全然ありませんでした」とため息をついた。

震災翌年に先代おかみで母親のミヲさん(享年85)を病気で亡くした。ミヲさんの墓を建てることができていない。「敷地はあるのですが、700万円かかると。旅館の運転資金がなくなってしまう。収入が安定するまでなかなか建てられない」と明かした。

ミヲさんの遺骨は旅館内の事務室にある。震災以前に亡くなった父の墓も地震で壊れ、寺に骨を預けたままだ。「両親はおしどり夫婦だったので早くお墓で一緒にさせてあげたいのですが、親不孝ですよね。お墓を建てることが最後の親孝行だと思っています」と苦しい胸の内をのぞかせた。

少しでも経営を上向かせようと、昨年8月からパンや菓子の販売を開始した。販売日は毎月3、17日。父母それぞれの命日と決めている。「頑張っていますと両親にも報告したくて」。客足が遠のいた現状から、採算が取れていない。厳しい経営状態が続く。

仮再建資金や子供の奨学金支払いなどで借金は4000万円以上。見えない将来に「10年突っ走ってきたけど、未来はあるのかな」と思い始めた。「年齢的なこともあるし、何年かかるか分からないけど、借金を返し終えたら辞めようと考えています」と明かした。

「ずっと頑張ってきましたが、どうにもならないことってあるんだと思います。お客さまを大切に、1日1日を大切にしながら、これで良かったという終わり方をしたい」。コロナ禍で老舗旅館がまた1つ、存続の危機を迎えている。【近藤由美子】