文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が、映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)の製作会社スターサンズが助成金交付内定後に下された不交付決定の行政処分の取り消しを求めた裁判で不交付決定処分の取り消しを命じる判決を下した東京地裁判決を不服とした、第1回控訴審が26日、東京高裁で開かれた。

被控訴人のスターサンズの代理人を務める弁護団は控訴審後、会見を開いた。スターサンズ側は、20年2月25日の第1回口頭弁論から一貫して「公益性の観点から適当ではないため」との理由による芸文振の不交付決定を、行政裁量の逸脱、乱用だと主張。また芸文振が、映画を作る権利自体を制限する処分(規制行政)ではなく、映画が19年9月27日に公開できたという事実をもって処分と憲法上の問題が無関係だと主張していること、映画の交付時には1つもなかった、助成金の募集案内、要項にスタッフ、キャストが重大な刑事処分を受けた場合は不交付、不交付の可能性がある、公益性の観点から内定の取り消しが出来るなどと追加の改定をしたことについてもスターサンズ側は疑問を呈し、重要な争点としていた。

弁護団の中でも、憲法の専門家としても知られる伊藤真弁護士は「薬物のまん延防止は、とても重要な公益。しかし、それが、時に誰もが反論できない公益性であるが故に、文化、芸術作品に対する規制の、正当化根拠にもなってしまいかねない。そこに表現の自由、文化芸術の促進という専門性の観点から歯止めをかけていくのが芸文振の存在意義ではないかと考えています」と主張。その上で「時に違和感、不快感を感じてしまうような人がいる文化芸術、多様な表現を、お互いに認め合える社会が、憲法が想定する自由な社会であるし、そこから新たな文化芸術が発展していく。私はそれが健全だと思う」と続けた。

さらに「その時々の社会通念だとか、一般常識や価値観のアンチテーゼとして、どの時代も文化、芸術は発展してきているわけです。過去の絵画、音楽…ありとあらゆる文化、芸術は、そういうものだろう。何か、その時の一定の価値観で規律してしまい、その方向性を国が決めてしまうのは大変な問題。そのことへの警鐘を鳴らしたい」と訴えた。

その上で、伊藤弁護士は「ちょっと、本件とは直接、関係ないんですけれども」とした上で、安倍晋三、菅義偉両政権の問題点を指摘した。

「安倍、菅政権が本来、自主性に任せて介入すべきではないところに、国家権力が介入してきたぞ、と。内閣法制局長官、最高裁人事、学術会議問題もそうですし。あいちトリエンナーレ問題なども、そうかもしれない。そういう、国と我々一般市民、文化芸術のせめぎ合いの中で、これを放置してはならないんだという、原告の熱い思いがあるのではないかな、と私は感じた者ですから賛同させて頂きました」

伊藤弁護士は、この日、体調不良で欠席したスターサンズ代表の河村光庸エグゼクティブプロデューサーの思いを代弁した上で「単に助成金が出る、出ない、得した、損したというレベルの話ではないと考えています。原判決(1審判決)は、はっきり憲法の表現の自由というものを、真正面から出してきているわけではないんですけど、行政の裁量というものを限定する、背後の土台となり考え方には憲法の表現の自由、文化芸術の自主性、専門性を尊重すべきだという視点が前提になっている。原判決が正当なんだと訴えなければいけない」と語った。