将棋の史上最年少4冠、藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖=19)が渡辺明王将(名人・棋王=37)に挑戦する、第71期ALSOK杯王将戦7番勝負第2局が22、23の両日、大阪府高槻市の温泉旅館「山水館」で行われ、後手の藤井が98手で渡辺を破った。

開幕から2連勝を飾り、史上4人目&史上最年少5冠まであと2勝とした。完勝を示す人工知能(AI)の「藤井曲線」が描かれた。第3局は29、30日に栃木県大田原市で行われる。

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逆転のきっかけすら与えない会心譜だった。将棋界にある8つのタイトルのうち、7つを占める「4冠×3冠」の頂上決戦。戦型は角換わりからの相早繰り銀。終局後の藤井は言う。「かなり激しい展開になることが多い展開。実際、そういった感じになった。ちょっとどうなっているかわからない局面が多かったです」。序盤から激闘だった。

1日目午前はお互いが研究手を繰り出した。49手目、渡辺は昼食休憩を挟み、2時間8分の大長考。藤井は中盤に差しかかる52手目にプロ入り後、最長となる2時間28分の大長考をした。

「8八歩は手抜かれる可能性もあったので、他のタイミングでできるかちょっとわからなかった。ただ△8八歩と打たないで△3六角というのはちょっと自信が持てなかったので、本譜で勝負しようかなと思いました」。トップ棋士の中でも読みの速さ、深さ、正確さは突出する藤井がじっくり考えた一手で、均衡は崩れた。

ネット中継の画面に表示されていたAIが局面ごとに算出する「勝率」はじりじりと上昇し、2日目午前には急上昇した。藤井の一手ごとの局面の勝率を結んだ形勢の推移を示すグラフは、中盤以降に徐々にリードを拡大することが多く、「藤井曲線」と呼ばれている。手堅く、着実にリードを拡大し、中終盤では逆転を許さないスケールの大きな「藤井将棋」。AIが浮き彫りにする強さは、この2日間でも発揮された。

今シリーズで王将を初奪取すれば、自身最多の5タイトルを同時に保持し、「レジェンド」の仲間入りを果たす。故・大山康晴15世名人、中原誠16世名人、羽生善治九段に次ぐ史上4人目となる5冠。10代で5冠を達成した先人はいない。

開幕連勝にも「あまり意識しない方がいいかなと思うので、また来週第3局があるので、それに向けてしっかり準備できればと思います」。1月に入り、過密スケジュールの疲れもあったようだが、再び心身の充実を取り戻した。【松浦隆司】

◆王将戦 1950年(昭25)に一般棋戦として創設。翌年からタイトル戦に。8大タイトル(竜王・名人・王位・王座・棋王・叡王・王将・棋聖)の序列7番目。1次予選、2次予選はトーナメント。2予の勝ち上がり3人と、シード棋士4人の計7人による総当たり戦を例年9月から年内に開催して挑戦者を決める。同星の場合は原則、順位上位の2人によるプレーオフ。2日制の7番勝負は例年1~3月に、全国を転戦する。1996年(平8)開催の第45期には、羽生善治6冠が谷川浩司王将に4連勝。5年前にタイトル戦となった叡王を除き、当時あった7大タイトル全制覇を達成した。

◆全8冠制覇は? 現在、将棋界のタイトルは8つある。藤井が王将を奪取し、来期、保持する叡王、棋聖、王位、竜王の4冠を全て防衛。さらに王座、棋王を獲得すると7冠到達。残るは名人戦。現在の順位戦B級1組から来期A級に昇格し、1期目で挑戦権を獲得すると、23年上半期に前人未到の「全8冠制覇」が実現する。