東京・蒲田の自宅マンションに3歳の長女を9日間放置して衰弱死させたとして、保護責任者遺棄致死などの罪に問われた母親の梯沙希被告(26)の裁判員裁判の第2回公判が28日、東京地裁(平出喜一裁判長)で開かれ、梯被告は子どものころに受けた虐待と、その後の性格形成について涙交じりに語った。

母親が高校生のときに生まれた梯被告は誕生後、施設に預けられ、小1のとき、母親の元に戻った。最初は優しかったが、徐々にたたかれたりするようになった。「『嫌だ』と言うと、口を針で刺されたり、包丁で刺されたり、風呂に沈められたり、階段から落とされたりしました」。この日、証人として出廷する予定だった母親は「やむを得ない事情」で出廷せず、供述調書が読み上げられた。

小学2年の夏休み、母親は同居していた男に「言うことを聞かんのやったら、縛れ」と言われ、梯被告を正座させ、後ろ手にして手や膝をガムテープで縛り、「おしっこやうんちをされたら困る」とごみ袋に入れて風呂場に放置した。食事も何日間も与えず、梯被告は痩せ細り、同居の男は「難民みたいや」と言ったという。母親は傷害と保護責任者遺棄で、男は保護責任者遺棄で逮捕された。

梯被告は以来、嫌なことも嫌と言えなくなった。「怖くて言えないです。何があるか分からないから、言いたくても言えないです」。付き合ったのは「俺は基本、着けないから」と避妊具を着けない男だった。避妊してと言えなかった。

16年11月、長女の稀華(のあ)ちゃんが誕生し、入籍したが、「おまえ、邪魔なんだよ。消えろ」「俺は仕方なく結婚したんだよ」と言われた。たたかれたり、首を絞められたりした。「やっぱりうちはずっとこうなんだな。うちが我慢していればいいんだなと思いました」。

17年7月に離婚し、稀華ちゃんを1人で育てた。保育所に入れ、働き始めたが、給料が足りず、19年1月には通わせることができなくなった。相談できる人はおらず、区役所に相談すれば生活保護を受けられることも知らなかった。

「不安だけど、のんちゃん(稀華ちゃん)が大きくなるまで頑張ると、必死に自分なりに頑張ってました」。しかし、20年になると、新型コロナが拡大し、バイト先の居酒屋の給料は「ただでさえ少ないのに全然減って、どうしようどうしようと思っていました」。

そんなとき、知人に鹿児島旅行に誘われた。同年5月、「ヤバい人だから、機嫌悪くさせないでねと言われ、断れないまま行きました」。5日間の旅行から帰ると、稀華ちゃんは眠っていた。「抱き締めて、のんちゃん、ごめん。こんなママでごめん。本当にごめんって、ずっと謝って、のんちゃんも泣いていました」。6月にまた誘われた。「『行くでしょ』と言われて、流れに流されて。何してるんだろ、自分。断れば、のんちゃんと一緒にいれるのに」。

6月5日から13日まで9日間。羽田空港からの帰り、稀華ちゃんと食べようとハンバーグを買った。5月のときのように稀華ちゃんは寝ているのかなと思ったが、起きてこなかった。脱水症と飢餓で死亡していた。