将棋の藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖=19)が渡辺明王将(名人・棋王=37)に挑戦する、第71期ALSOK杯王将戦7番勝負第4局(主催 毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社・日本将棋連盟)は11、12日、東京都立川市で行われ、114手で後手の藤井が勝って開幕4連勝で王将を初奪取し、最年少5冠になった。19歳6カ月の5タイトル保持は最年少で史上4人目。将棋界にある8つのタイトルのうち、過半数の5冠を獲得し、前人未到の全冠制覇が視野に入ってきた。

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史上最年少4冠の偉業の達成からわずか3カ月。藤井が再び将棋史を塗り替えた。「4冠×3冠」の頂上決戦。最高峰の名人のタイトルを持つ渡辺に4連勝のストレート勝ち、史上最年少5冠を達成した。インターネット中継で解説を務めた深浦康市九段は異次元の強さに「恐ろしいですね」と声を震わせた。

史上初の「10代5冠」に藤井は「今回の7番勝負は持ち時間が8時間と長く、あらためて勉強になった。(5冠は)自分の実力を考えると、出来過ぎの結果です。今後それに見合う実力をつけていきたい」。自分に厳しい姿勢は変わらない。

大記録のかかった第4局は先手の渡辺が角道を開けて矢倉に誘導。タイトル通算29期を誇る「魔王」が練りに練った作戦をぶつけてきた。バランスを重視した藤井は、急戦でも持久戦でも対応できる雁木(がんぎ)の陣形で応じた。

勝負の分かれ目は2日目午前。藤井が後手4四銀(76手目)と指すと、渡辺は1時間49分の大長考に沈む。一直線に斬り合う局面になりそうだったが、流れをせき止め、緩やかにする妙手。「後手4四銀、後手4三金(78手目)で、少しこちらの玉に耐久力がある形なのかなと思った」と振り返った。

常識にとらわれない柔軟な一手に人工知能(AI)の将棋ソフトが示す評価値は、渡辺の優勢から藤井に傾いた。野球に例えるなら、打者のタイミングを外すチェンジアップに、渡辺の攻めは“空振り”した。その後、リードを少しずつ広げて勝ちきる横綱相撲だった。

王将を初奪取し、自身最多の5タイトルを同時に保持し、羽生善治九段ら「レジェンド」の仲間入りを果たした藤井は「過去に5冠になられた方は時代を築いた偉大な棋士ばかりなので光栄に思う」と喜びを語った。前人未到の全8冠制覇も視野に入った。23年6月にも「藤井8冠」の可能性があるが「(対局を重ねる)経験を通して実力を高めて、(8冠に)少しでも近づければいいのかなと」と謙虚に話した。

好きな言葉がある。「無極」。プロ入りした際、知人からもらった色紙などに押す関防印に彫られていた。「極まることのない、頂点がないという意味で、その言葉を自分も大切にしていきたい」。どこまでも上へ。名実ともに超一流棋士の仲間入りを果たした19歳は、歩みを止めない。【松浦隆司】

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◆将棋界の5冠と最初の達成時年齢 過去3人。第1号は故大山康晴15世名人。1963年(昭38)2月2日、39歳10カ月で達成した。獲得タイトルは名人・十段・王位・王将・棋聖。次いで中原誠16世名人(引退)が78年2月6日、30歳5カ月で同じタイトルを獲得。93年8月18日に羽生善治九段が史上最年少の22歳10カ月で達成。この時は竜王・王位・王座・棋王・棋聖を保持した。

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◆藤井聡太(ふじい・そうた)2002年(平14)7月19日、愛知県瀬戸市生まれ。5歳で祖母から将棋を教わり、地元の教室に通う。杉本昌隆八段門下。16年10月、14歳2カ月の史上最年少でプロ(四段)に。史上5人目の中学生棋士。17年6月、デビューから負けなしの29連勝で、将棋界の連勝新記録を達成。18年2月、朝日杯で史上最年少の公式戦初制覇。20年7月、17歳11カ月の史上最年少で初タイトルとなる棋聖を獲得。翌月王位も奪取。21年7月、棋聖初防衛。タイトル通算3期獲得で九段昇段。王位防衛後、叡王と竜王を奪取。今年2月、王将も奪取して、19歳7カ月で最年少5冠に。21年の獲得賞金と対局料は6996万円で3位(20年は4554万円で4位)。