大相撲夏場所(東京・両国国技館)が8日、コロナ禍による入場者数制限が大幅に緩和されて初日を迎え、国技館周辺の“大相撲景気”も回復の兆しを感じるような人出となった。

これまでは観客数の上限が5000人だったが、今場所から通常の約87%となる最大9265人までチケットを発売した。後方のB、Cの枡席はこれまで通り2人掛け(本来は4人)のままだが、たまり席、S、A枡席、イス席は全席販売。黙食での飲食も認められ、飲酒も1人1本まで可能となった。枡席が4人で座れる影響もあってか、館内には子供連れも目立った。拍手の音量も倍増したほか、観客が思わず「お~」「わ~」と漏らしてしまう声も大きくなった。

直近に国技館で行われた今年1月の初場所時は、閑散とした時間も多かった国技館周辺も、多くの人で賑わった。約50人の外国人団体客が並んで入場する場面も。米国人カップルは「ファーストタイム。エキサイティング」と話し、JR両国駅近くの土産物店で相撲グッズやお菓子を購入してから初国技館を体感した。

コロナ期間の外出自粛中に大相撲ファンとなった千葉県在住の親子もいた。娘の20代女性は「緊急事態宣言などもなくなったし、ようやく来ることが出来ました。今まではテレビ観戦だったのですが、初日のチケットが取れたので、楽しみにしていました」と笑顔。きっかけは学生だった昨年7月場所で翔猿が大関正代を逆転で破った一番だった。「コロナでどこも行けなかったので相撲好きの祖母の家でテレビを見ていたら、その相撲の解説をしてくれた。そこから相撲が好きになりました」。社会人になっても好角家に拍車がかかり、今では母も含めての相撲談義が家族だんらんに。「翔猿関はしこ名のように飛び跳ねたりして動きのバリエーションがすごい。大きな力士を必死に倒したあとのドヤ顔も好き」。50代の母は春場所で初優勝した関脇若隆景推しだ。力士像の前に立って土俵入りポーズで記念撮影するなど、両国の街も楽しんだ。

のべ1年以上も休業期間を余儀なくされてきた「ちゃんこ巴潟」では、観戦前にランチを楽しむ客も数多く訪れた。女将の工藤みよ子さんは「ありがたいことに常連さんも戻ってきてくれています。遠くから来ていただいた方もいらっしゃいますが、旅行客や団体さんは増えていない。まだまだ半分戻っているかなあという感じです」。通常営業が可能となったことに喜びを感じつつも、さらなる両国の盛り上がりを願った。

「ちゃんこ霧島」でも予約客は初場所時に比べると、かなり増えた。「お客さんが来てくれるようにはなりつつあってありがたいですが、大人数ではなく2人のお客さまが多いんです」と担当者は明かした。ビルの8階から地下1階まで9フロアある客席も、予約で満席になるのは3フロア程度。コロナ前には4人以上の団体で観戦前後の食事と相撲観戦をセットで訪れる客も多かっただけに、「相撲を見て、ちゃんこを食べてという日本の伝統文化に触れていただく機会が減っていることが悲しい」。増えつつある若年層や外国人の相撲ファンも含めて、食も交えた大相撲文化の継承を期待した。

駅前の両国リバーホテルでも、昨年5月場所初日や今年初場所初日に比べると、宿泊客はかなり増加している。「ゴールデンウイークは満室が多かったですが、今日はさほどではなく空室があります。お相撲を見に来られた方の宿泊がかなり増えたということではなさそうです」。宿泊をともなって観戦に訪れる人が増えるのはもう少し先となりそうだ。

横綱照ノ富士が小結大栄翔に敗れた結びの一番後の午後6時すぎ、JR両国駅周辺は再び活気づいた。帰路につく客で駅は大混雑。4人で観戦した40代男性は「久しぶりの相撲。ちょっと一杯のつもりが、いっぱい(たくさん)になっちゃうんですよね」と居酒屋へ。飲食店の多くがにぎわった。約3年ぶりに戻りつつある大相撲開催時の両国の風景は、15日間続く。【鎌田直秀】