害鳥のイメージも強いカラスだが、東京都心部では激減していることが分かった。01年に東京都が発足した「カラス対策プロジェクトチーム」による公園などでの捕獲や、区市町村に徹底を促してきた生ゴミ収集方法改善が大きな要因だ。都が約40カ所で実施してきた生息数調査では01年度比べて20年度は約70%減。コロナ禍で飲食店密集地のゴミが減少している影響も多少はある。一方で都心を少し離れたベッドタウンでは、これまで少なかったゴミを荒らさないミヤマガラスが大量発生する事例もあり、カラスを取り巻く様相が変化する可能性も出てきた。

あなたの街では、カラス被害は減っていますか? 早朝の繁華街や商店街のゴミ置き場に多数のカラスが群がる光景は、かなり少なくなった。東京都環境局自然環境部の佐藤基以課長(54)は「ネットなどでの生ゴミ対策と、捕獲作業の継続が2つの大きな要因だと思っています」と説明。都に寄せられる苦情・相談数も多い時は年間3994件あったが、20年度は288件で90%以上減少した。

都は石原慎太郎知事時代の01年に「カラス対策プロジェクトチーム」を立ち上げた。99年の討論会で「都は何をやっているんだ」と疑問の声が上がったこともきっかけ。生息数が多いとみられる約40カ所での都の調査では、3万6400羽だった01年に比べ、20年には1万1000羽。約70%減の成果が出ている。

カラスの絶対数を減らすために、森林を有する公園などに捕獲用トラップを設置した。生肉などのエサや数羽のおとりを入れた幅4メートル×3メートル、高さ3メートルのカゴのようなもの。入り口から1度中に入ると出られない仕組みとなっており、駆除業者が定期的に回収する。一時は120基を設置していたが、効果的な場所を厳選しながら現在は43カ所に約80基。ここ数年は生息数が微増した。春に繁殖活動抑制のために巣を撤去してきたが、人や費用面から「巣落としを削減している」ことも一因かもしれない。

人への生活被害改善を目的に、各自治体への生ゴミ対策の協力も要望してきた。地域によって差はあるが、ゴミの上にネットを張ったり、集合住宅などではフタをかぶせる収集場所も増えた。飲食店の多い場所では深夜や早朝回収まで徹底している例もある。佐藤課長は「『カラス、なぜ鳴くの~、カラスは山に~♪』の童謡にもあるように、もともと人に近いところで共存してきた。外来種でもないのでゼロにする必要はないと思っています」。カラスが増え、苦情も増えてきた70年代以前は7000羽程度だったとされており、「そのあたりが目安。目標ではない。やめたらまた増えてしまうので、効果や予算を見直しながら、もうちょっと継続する必要がある」と今後を見据えた。

食料の一部にしていた生ゴミを求めて、都心のカラスは郊外に行ったのか? どうやらそうでもなさそうだ。動物行動学を専門としている東大総合研究博物館特任准教授の松原始さん(52)は「周辺地域どこにでもカラスがいるので、そこに割り込んで食べ物を分けてもらえることは考えにくい。他の場所には行きにくい。都の周辺地域でも全体的に生息数は減っています」と推察。「一番の天敵のオオタカが増えており、カラスを襲っている」とし、約19年とされている野生時の寿命をまっとうする前の外的影響も多少ある。

「都市鳥研究会」(事務局・埼玉県和光市)が明治神宮など都心3カ所に絞って5年ごとに調査している生息数では、00年の1万8658羽から昨年の2785羽に約85%減。直近の15年からも約42%減った。川内博代表(73)は「この1、2年はコロナの外食減で都心の飲食店の生ゴミが減った影響もあるかもしれない。銀座は朝でも数羽しか見かけない」。都心以外では「埼玉県も減っている」。ゴミを荒らしたり人を襲う中心とされてきたハシブトガラスが減る一方、「郊外ではハシボソガラスの割合が少し増えているように感じます」。さらに「今まで関東にほとんどいなかった大陸系のミヤマガラスが埼玉県の越谷市にけっこういると聞いている」と付け加えた。ミヤマガラスは少し小柄で、秋から冬にかけて訪れる渡り鳥。ゴミではなく落ち穂などを主食とする。「捕獲とゴミ対策で減ってきてはいますが、複雑になってきている」とカラス生態系のさらなる変化も示唆した。【鎌田直秀】