一見して何もないような山林原野がお宝のヤマだった?! 今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が大人気だが、その舞台となっている神奈川県三浦半島の山城跡を巡るツアーも注目されてきた。

城らしい天守閣もなく、建物すらない場所で、ツアー参加者は700年以上前の鎌倉時代に想像力を武器にする。ツアーに同行して、その魅力を探ってみた。

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横須賀市久里浜地区の京急バス「岩戸」バス停に午前9時。集合地点の情報はそれだけだった。インターネットの地図情報で確認したが、JRと京急の久里浜駅から歩いて30分以上の「へんぴな」場所だ。

続々と集まる参加者もくちぐちに「なんか不便な場所よね」「バスでもなかなか来るところじゃないね」と文句と思いきや、顔はニコニコ笑っている。スタート地点が未知の場所であることで、これから始まる山城ツアーのワクワク感まで演出されているようだった。

横須賀市観光協会ではこれまで4回、山城ガイドの第一人者「山城ガールむつみさん」とコラボして山城ツアーを実施してきた。最初は2021年4月で参加者12人がワゴンタクシー4台に分乗して三浦半島をぐるんと巡った。2度目は同年10月、やはりタクシーで衣笠~葉山~鎌倉各所をまわった。3度目は22年2月に衣笠城を中心にウオーキングして歴史の現場を堪能できた。2日間開催してそれぞれ28人と19人が参加した。

そして4回目の今年5月は取材同行で24人の全編徒歩のツアー。午後1時までの約4時間で約1万5000歩を歩いた。佐原城は源平合戦で活躍した武将佐原義連(よしつら)の居城だったと伝えられる。一ノ谷の合戦で、源義経が断崖を駆け下りた「鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし」でまっさきに馬に乗って先陣を切ったのが義連だった。建物も何もないが見晴らしのいい山の上で、崖を駆け下ったいかにも義連が好みそうな立地だった。

そして市街地を抜け、久里浜港近くの怒田城に。三浦一族の水軍拠点だったとされており、切り立った絶壁の下には、船着き場があったと思われる。むつみさんのツアーに4回参加している横山慶太さん(43=埼玉・越谷市)は「最初は何もない野山を見物して何が面白いのだろうと、思って参加したんですが、見事にハマリました。地形から当時を想像するのは楽しい。今じゃ、古い街道を歩いて昔はどんな街並みだったのかを勝手に思い描いて楽しめるようになりました」と話した。

城跡は山林原野なので、設備投資はゼロ。お金をかけずに歴史を資源にした観光手法のモデルケースになるかもしれない。【寺沢卓】

○…今回取材したのは、横須賀市観光協会主催で、むつみさんをガイドに招いた「三浦一族ゆかりの地めぐり~佐原&怒田(ぬた)城を訪ねて」というタイトルの山城ツアー。参加者は24人。佐原城と怒田城の山城2つをすべて歩いてまわる。歩くだけなので参加費は大人3000円。自然を満喫できて、お財布にもやさしいツアーといえる。タクシーを使うパターンは会費7000円。今後は7月に第5弾を企画している。

むつみさんは12年前、山城をテーマとした個人ブログを開設。「人前に出ることは想定していなかった」と語る。ネットで話題となり、タウン誌で山城をテーマにしたコラムを執筆していたら日帰りツアーのガイドを依頼されファンが少しずつ増えていった。「鎌倉殿の13人」のドラマ放送は「こういう物語を本当に心待ちにしていた。横須賀市の小学校からも自由課題の講師として依頼もされて、山城が歴史教育にも役立つと認められてうれしいです」と喜んだ。