6月22日の参院選の公示まで残り少ないタイミングで、自民党を手痛いスキャンダルが襲った。吉川赳衆院議員(40)のスキャンダルだ。報じた「NEWSポストセブン」によると、吉川氏は5月27日夜、都内の焼き肉店で18歳の女性と飲酒を伴う食事をし、女性側は吉川氏から4万円を受け取ったと説明したとされる。吉川氏は、総裁派閥の岸田派所属。報道が出たのは6月9日。その翌日の10日、吉川氏は自民党離党に追い込まれた。

吉川氏自身の説明はまだなされておらず、事実関係は明らかになっていないが、ことの重大性から議員辞職を迫る声も多い。選挙前に出るスキャンダルとしては、自民党関係者によると、「超最悪」レベルだそうだ。参院選前だけに、「スピード離党」が必要だった事情もうかがえる。

追われるように離党することになった吉川氏。3年前のある「因縁」を思い出さざるを得ない。

吉川氏の地盤は、静岡5区。この選挙区は、旧民主党時代から強固な地盤を誇ってきた、細野豪志衆院議員(50)の地盤でもある。吉川氏は、細野氏と2012年以降4度戦ったが、小選挙区で細野氏に全敗。計3回、比例復活で議席を得てきた。

比例復活3回のうち17年衆院選は、当初、比例復活できずに落選していた。しかし、当時比例東海ブロックで当選した自民党の元議員が、準強制性交容疑で女性に告訴状を出されるなどしたことを受け、自民党を離党。19年3月、議員辞職に追い込まれた。その時、比例東海ブロックで次点にいたのが吉川氏。これで繰り上げ当選が決まった。元同僚のスキャンダルで、議席がめぐってきたのだ。

しかし吉川氏の繰り上げ当選は、自民党内にややこしい事態を招く結果にもなった。細野氏は17年衆院選の後に、それまで所属していた希望の党を離党し無所属に。そして、吉川氏が比例復活する少し前の19年1月、無所属のまま、自民党幹事長だった二階敏博氏の派閥、二階派の「特別会員」となった。つまり、静岡5区に自民党系の候補が2人存在することになった。

吉川氏は19年3月14日、繰り上げ当選後、初めて衆院本会議に出席したが、座ったのはもちろん自民党席。その背中を無所属席から細野氏が見つめる、緊張感あふれる構図となった。

二階派は、当時の幹事長派閥。一方、吉川氏が属した岸田派のトップ岸田氏は当時、政調会長。静岡5区をめぐり、党幹部を巻き込んだ「二階派VS岸田派」という党内抗争が起きることになったのだ。

吉川氏、細野氏、どちらが「自民本流」なのかの争い。昨年の衆院選でも、静岡5区は無所属の細野氏が圧勝し、吉川氏はまたもや比例復活だった。細野氏はその後、自民党への入党が認められたが、二階派と岸田派の力関係は、3年前とは逆転。二階氏は幹事長を去り、岸田氏は総理総裁に上り詰めた。2人は同じ自民党所属となったが、総裁派閥の岸田派にいる吉川氏と二階派の細野氏の立場は、この3年で「逆転」してしまっていた。

そんな流れの中で起きたのが、今回の吉川氏のスキャンダルだ。細野氏に小選挙区でずっと勝つことができず、比例復活当選を続けていた吉川氏に、それでも党公認を与えたのが自民党総裁の岸田首相だ。首相にとって、結果的に恩をあだで返された形になったともいえる。

静岡5区をめぐる自民党「本流」争いは、総裁派閥の吉川氏が、自身がまいた種で離党する事態になったことで、ふたたび動き始めることになりそうだ。細野氏は自民党に入党こそしたが、静岡5区の自民党支部長には吉川氏が就いてきた。選挙に強い細野氏が、ついに静岡5区の自民党の議員になるのか。3年前に始まった「二階派VS岸田派・静岡の陣」は、あっけない形で幕を閉じることになるかもしれない。【中山知子】