深夜につい見てしまうのがテレビの通販番組。どの民放局もオンパレードで、扱う商品はまさに多種多様。その中で、音楽に特化した「音楽のある風景」が放送開始20周年を迎えた。進行役が登場する他の番組とは違い、音楽と映像で独自に製作した企画CDを紹介する。純粋な音楽番組と見まがう内容である。デジタル化でCD売り上げが激減。苦境の音楽業界だが、「音楽のある風景」は長寿番組として存在感を示している。

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「音楽のある風景」は、日本で唯一の音楽専門の通販番組(30分)である。BS放送を中心に、ここでしか購入できない企画CDを紹介、販売している。製作はユニバーサルミュージック合同会社と燈音舎。

ユニバーサル開発本部制作編成グループマネジャーの勝裕あゆみ氏は「アダルト層がターゲットです。レコード店が減り足を運ばなくなったけれど、昔はよく音楽を聴いて、まだまだ音楽が好き。でも何を聴けばいいか、どこで入手できるか分からないという方のために、20年前から始まりました」。

商品のジャンルは演歌、歌謡曲、フォークソング、J-POP、洋楽、クラシック、オールディーズなどさまざま。どれもCD5枚組前後に、誰もが知る懐かしい100曲前後が収録される。個性的な商品ばかりで、10年以上売れているものも多い(別掲表参考)。13年発売の「大人の歌謡曲」(税込み1万980円)は、累計10万セットを超えているという。

勝裕氏のセクションでは毎月、企画会議が行われる。常に20~30の企画が出される。年間5、6タイトルの新作発売を目標としている。「『この曲はいいんだぞ』と押しつけるような選曲は絶対にしません。鉄則です。最新曲をお客様は求めていません。音楽に関しては懐古主義のようなネガティブな言い方はしません。昔の曲を聴いて癒やされ、元気になるという方が多いです」。

番組では、収録曲が映像とともに紹介される。例えばフォークソングの場合、60年代の映像が流れる。演歌ではネオン街が、クラシックでは海外の美しい風景が流れる。音と映像が絶妙にマッチし、まるで純粋な音楽番組や紀行番組を見ているような気分になる。一部ナレーションがあるだけで、番組名が「音楽のある風景」であるゆえんだ。

映像は専門のライブラリーから借りることもあるが、映像部隊が新たに撮影することも多い。パリまで撮影に行ったこともある。開発本部の岩崎浩成本部長は「音楽の思い出は人それぞれです。映像を見ることで、曲にまつわる思い出やその時の自分の風景を呼び起こせる。番組の特徴です」と語る。ただ番組を見ただけで満足されては本末転倒。もっと聴きたい、買いたいと思うように巧みに構成されている。

100曲前後を収録する数々の商品は、ユニバーサルが持つ音源だけではまかなえない。日本コロムビア、日本ビクター、ソニーミュージックといった他のレコード会社の音源を借りなければ成立しない。原盤権などの権利関係もクリアしなければならない。当初は交渉に苦労したが、今は他社が企画を持ち込んでくれるまでになった。デジタル化でCDの売り上げが激減する中、商品が売れれば当然、利益につながる。自社制作で自販より、ノウハウが確立し販売力のある同番組に任せた方が効率的だ。勝裕氏は「最近は『音楽のある風景』だけ特別だよ、と言っていただくこともあります」。

全国のCDショップでも販売すればと思うが、そうはいかないという。CDショップに置ける「市販」ではなく、通常ルートで販売できない「特販」の専用商品として許諾を取っているためだ。ただ番組でしか買えないからこそ、見る者の購買欲を刺激する。岩崎本部長は「ネットで聴くのが主流になっています。シニアの方はその手段を知らなかったり、できない方も多い。ならば音楽を聴かないでいい、とはしたくない。その方たちが潜在的に聴きたい音楽をきちんと番組でお伝えして、商品をお届けする。テレビを見て気軽に電話すれば買えるんだという、このシンプルさで20年続いているのかなと思います」と語る。

購入者から毎月数百通の感想が届く。最近も北海道の男性から「貴社の多彩な商品を見聞きすることで、80才を過ぎた者の単純な毎日の生活が存分に癒やされております」と感謝の手紙が届いた。勝裕氏は「買っていただいて『ありがとう』と言っていただけるのがとてもうれしい。励みになります」と感激する。

高齢化社会の音楽愛好家にとって、「音楽のある風景」はオアシスのような存在なのである。

◆「音楽のある風景」 燈音舎の日高治彦社長が、ユニバーサル時代にCDの通販番組の制作を会社に提案。30分で1商品を紹介する番組として、02年4月2日に第1回がUHF局で放送された。商品はクラシック曲を集めたCD4枚組「クラシカルライフ~アダージョ(イタリア語でくつろぐの意)」だった。現在、番組はユニバーサル開発本部が企画、選曲したCDの収録曲を30分に編集した音をベースに、燈音舎が映像を重ねるなどして制作する。同社は通販業務も担い、季刊のカタログも発行している。番組はBS日テレやBSフジ、BS朝日などで早朝や深夜に放送されている。BS4Kでも放送されている。放送時間と商品の予定は、同番組の公式通販サイトに掲載されている。

<「テレビショッピング」第1号は70年フジ>

テレビの通販番組は「テレビショッピング」と総称される。雑誌や新聞、カタログによる通販は明治時代から存在した。テレビの通販は、64年の東京オリンピック(五輪)でテレビが普及し登場した。アレコレを紹介する。

▼第1号 70年にフジテレビ系の生活情報番組「東京ホームジョッキー」で、産地直送の商品を紹介したのが日本初のテレビショッピングといわれる。以後「日本直販」「日本文化センター」など続々登場。

▼海外番組 テレビショッピングの先進国アメリカの番組が日本に上陸。94年開始のテレビ東京系「テレコンワールド」は深夜帯で視聴率3%を獲得した。

▼人気者 甲高い声が印象的な「ジャパネットたかた」の高田明社長(引退)。すまなそうに値段を言う「トーカ堂」の北義則社長は、博多華丸がモノマネしてブレーク。中野珠子キャスターは通販番組の女王。

▼大ヒット 70年代のぶら下がり健康器具「サンパワー」は爆発的にヒットした。腹筋ベルト「スレンダートーン」。健康エクササイズの「ビリーズブートキャンプ」。寝具の「トゥルースリーパー」。フライパンの「フレーバーストーン」などが有名。

▼「あるよ」 フジテレビ系ドラマ「HERO」(01年)で、通販番組好きの久利生公平検事(木村拓哉)に向かって、バーのマスター(田中要次)が言うセリフ。通販番組自体があらためて注目された。

◆笹森文彦(ささもり・ふみひこ)北海道札幌市生まれ。83年入社。主に文化社会部で音楽担当。「音楽のある風景」は昔から大のお気に入り番組。かつてフォークソングのCDBOXが無性に欲しくなり、放送中に電話をして即買いした。榊原郁恵、高橋ひとみ、手塚理美の3人組で食レポする通販番組も大好きで見入ってしまう。