安倍さんの非業の死で弔い合戦となり、ただでさえ堅調だった自民党が大勝した。解散しなければ、岸田さんは向こう3年間、大きな国政選挙がなく、存分に自分がやりたい政策ができる「黄金の3年」を手に入れたことになる。

最大派閥を率い、その意向に気を使わなければならなかった安倍さんもいない。まさに「黄金」だが、選挙がないことが、逆に波乱要因となる可能性がある。

選挙後の最大の注目は、安倍派の後任会長が誰になるか。何人かの名が挙がっているが、この参院選で安倍派は94人から100人以上になる。安倍さんだからまとめられたが、安倍さん以外では難しい。下手をすると、分裂するだろうとみている。

分裂だけでは済まず、分裂した安倍派を他の派閥が乗っ取ろうとする動きも出てくる。自民党がまとまっているのは選挙で勝たなければいけないからだ。その選挙が3年間ない。安心して派閥抗争ができることで、相当激しいものになるのではないか。それを岸田さんが抑えられるか。抑え方に失敗すると、岸田降ろしが始まるかもしれない。

存分に自分がやりたい政策ができる3年とはいえ、岸田さんは本当にやりたい政策を持っているのか、何をやりたいのか、よく分からない。自民党は、田中角栄、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三氏らやりたいことがはっきりしている政治家は認めるが、よく分からない政治家は本音では認めてない。

自分はやりたいことを持っている、自分の方が上だと思っている政治家が、自民党には少なくとも2人いる。これも波乱の要因となってくるだろう。

◆田原総一朗(たはら・そういちろう)1934年(昭9)4月15日生まれ、滋賀県彦根市出身。早大卒。岩波映画、東京12チャンネルを経て77年からフリー。「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)の司会は87年から続く。