カルト団体や悪質商法などの勧誘について、あらためて不安が高まっています。特に大学生などが狙われやすいとされてきましたが、コロナ禍で社会環境が変化する中で手口などに変化はあるのか、どうすれば防げるのか-。専門家に実情を聞いてみました。

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日本の大学は近年、カルト団体などから学生を守るための指導、活動を続けています。大阪大の場合、06年から毎年、新入生全員に「大学生活環境論」という講義(現在60分間)を必修とし、カルト団体の勧誘の手口や対応などを教えています。17年からは啓発動画も制作し、これまで4本を大学公式ユーチューブチャンネルで公開しています。学生から実際に相談があった内容をもとにした寸劇で、タイトルは「仁義なき刺客」。「待伏ノ術」「追付ノ術」「集団包囲ノ術」「サークル偽装ノ術」と手口によって4編を用意し、例えば「待伏ノ術」は「単独で歩くターゲットを待ち伏せし、何げない会話から個人情報を聞き出す術」などと解説。「今忙しいんで、他を当たって下さい」と「情報教示拒否ノ術」を使うなどするよう指南しています。高い完成度で、他大学でも視聴をすすめられています。

-どういう考えでこうした講義や動画を実行していますか

09年から講義など予防啓発を担当する大阪大キャンパスライフ健康支援・相談センターの太刀掛(たちかけ)俊之教授 学生の人生を左右することだからです。はまってしまうと人生を棒に振りかねない。数あるリスクの中では大きいという判断です。動画は手口を大学が把握していることも相手方に伝わり、けん制、抑止にもなると思います。

-コロナ禍で対面の交流がしにくくなり、より孤立しがちになりました。カルト団体や悪質商法などの勧誘も、SNSで「春から○○大生」のようなハッシュタグを介した接触やオンラインサロン、マッチングアプリなどの手口に変化してきたと聞きました

太刀掛さん あるカルト団体の中で、SNSでどう勧誘するのが効率がいいか、具体的にレクチャーをしていることも把握しています。ハッシュタグ「春から〇〇大」などを利用する学生は新入生が多く、あるカルト団体では、発信内容にいいねを押したり、コメントしたりすることを団体メンバーに推奨しています。それにまた新入生がアプローチする。SNSは自分で選んで連絡を取る形なので、対面よりハードルが低くなります。声をかける側もそれを狙っているようです。彼らは徐々に接点を増やし、どこかのタイミングで対面で会う機会をつくります。高校生もターゲットに入ってきていて、相談も受けます。

-引っかからないために、どんなことに注意すればいいですか

太刀掛さん 相談は初期段階、誘われて違和感があってくるケースがほとんどです。すぐにブロックしたり、連絡を絶ちなさいとアドバイスしています。だれでも不安だったり、ボランティアや社会貢献をしたい気持ちがあると思います。それをうちなら実現できるよと勧誘したり、悩みを聞いてあげるとか、すごくもうかるとか言ってくる場合はいったん保留。目の前の人がとてもいい人でも、そういう場合はいったん保留し、家族や友人、大学などに相談することです。

中に入ってしまうこともあると思います。すごくちやほやされたり、質問してもはぐらかされたり、今はだれも言っちゃだめと言われるなどしたら、違和感を大事にしてほしいです。イベントに1人なら参加させるけど、2人で申し込むと定員がいっぱいですと断る団体もあります。主催団体がどこか、連絡先はしっかりしているかなどを確認するのも大事。ウエブでも調べられますが、都合のいい内容が検索で目につくようにつくられているケースもあります。とにかく正しい知識を持ってほしいです。

-カルト宗教だけでなく、自己啓発セミナー、マルチ商法なども問題です。また18歳から大人になり、親の同意なく自分で契約ができるようになった一方、「未成年者取消権」もなくなり、18歳、19歳のトラブルも心配されています

太刀掛さん 海外の不動産に投資するようなもうけ話もあります。自己啓発の場合、ホテルで数日間研修を受けて十数万円かかるものに友人がはまり、自分も勧誘されているという相談もありました。18歳成人の注意点については、カルトの講義に盛り込むことも必要だと感じています。【聞き手・久保勇人】