政界は今年も揺れ動いた。岸田文雄首相による「幻の師走解散」の奇襲計画も永田町を駆け抜けた。10月上旬、スマホの着信画面に自民党閣僚経験者の名前。「あれ、やっぱり、ありそうだ。あの人は決断すると早いから」。あれは「解散総選挙」、あの人とは「岸田首相」だ。

昨年10月の衆院選で勝利した岸田氏は次期衆院選まで「黄金の3年」という安定切符をつかんだが、自ら即決した国葬は世論を分断し、故安倍氏が開けた旧統一教会を巡る「パンドラの箱」によって自民党議員の教団側との接点が相次ぎ、判明して批判が高まった。

奇策が浮上した。次期衆院小選挙区の定数を「10増10減」とする改正公選法は今月28日から施行されるが自民党の調整は難航中だ。施行前なら現行区割りで定数減の選挙区の候補者に朗報。岸田氏率いる岸田派は党内第5派閥。上位派閥との協調関係が不可欠の岸田政権にとって他派閥に恩を売る絶好機だ。

7月参院選の勝利をベースに野党側も準備不足で与党過半数の可能性はある。来春の統一地方選への影響を避け、師走で投票率が下がれば、組織票のある与党有利。幻となったが岸田氏なら「やりかねない」と今も与野党幹部は警戒する。

旧統一教会を巡る接点が相次いだ山際大志郎前経済再生相ら3閣僚の辞任ドミノでは「後手後手」と批判も、臨時国会が閉会した途端に防衛費増額の財源を増税で賄う方針を発表し、防衛力の強化に反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記と、歴史的な転換点となる安保関連3文書を臨時閣議で決定した。

初当選から岸田氏を知る関係者は「良くも悪くも、お公家さま」とやゆする。「聞く力」を掲げるが、ベテラン議員は「ただ聞いているだけ」と指摘する。岸田氏にはソフトな顔と強硬姿勢の二面性がある。公家の衣を突如、脱ぎ捨て大ナタをふるう姿に「あまりに唐突。党には災い」(ベテラン議員)と懸念の声も。来年も突如、独断専行型に変身する岸田劇場は続く。【大上悟】

<2022年。政界の主な出来事>

◆2月 22日=22年度予算案が衆議院本会議で与党と、野党の国民民主党が異例の賛成で採決

◆3月 13日=石川県知事選挙で元プロレスラーの馳浩元文科相が初当選

◆4月 15日=れいわ新選組代表の山本太郎衆院議員が議員辞職し、7月の参院選出馬を発表

◆5月 23日=岸田首相が、訪日中のバイデン米大統領と首脳会談。

◆6月 10日=パパ活疑惑が報じられた自民党の吉川赳衆院議員が離党。15日=通常国会閉幕。26年ぶりに政府提出法案が全て成立

◆7月 8日=安倍晋三元首相が奈良市内で参院選の応援演説中に銃撃され、搬送先の病院で死去。10日=参院選で自民党が63議席と単独で改選過半数を獲得

◆8月 10日=第2次岸田改造内閣、自民党の新執行部を発表

◆9月 27日=日本武道館で安倍元首相の国葬儀

◆10月 24日=旧統一教会を巡る接点が相次いだ山際大志郎経済再生相を事実上の更迭

◆11月 11日=死刑執行に関する職務を軽視するような発言をした葉梨康弘法相を事実上の更迭。20日=「政治とカネ」を巡る疑惑で寺田稔総務相を事実上の更迭

◆12月 10日=臨時国会閉会。旧統一教会などの被害者救済法が成立。21日=薗浦健太郎衆院議員が政治と金の疑惑で自民党離党、議員辞職。翌日略式起訴