藤井聡太王将(竜王・王位・叡王・棋聖=20)が国民栄誉賞棋士・羽生善治九段(52)の挑戦を受ける、将棋の第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第6局が12日、佐賀県上峰町「大幸園」で行われた。11日午前9時からの2日制で始まった対局は後手の藤井が勝ち、4勝2敗として初防衛を果たした。

タイトル獲得通算99期で、今回大台の100期を目指した羽生の偉業達成は成らなかった。

羽生が投了を告げた。シリーズ2勝を挙げた先手番。今局は角換わり早繰り銀で勝負を挑んだが、敗れた。「昨年の公式戦で同じ形を指してみてわからない部分があったので、もう1度やってみた。角と銀の持ち駒でもうちょっとうまくいくと思っていたのですが、手を作るのに難しかった。桂頭あたりを攻めたかったが、いい手がなくて苦しくしてしまった。封じ手(59手目の先手3四銀)のあたりはもう悪い。その前に問題があったと思います」。敗戦にも淡々とした表情だった。

タイトル戦登場138回。竜王7、名人9、王位18、王座24、棋王13、王将12、棋聖16の計99期を獲得しているレジェンドは、昨年10~12月の竜王戦で藤井を苦しめた広瀬章人八段(36)同様に7番勝負で2勝した。1勝目は相掛かり、2勝目は角換わり腰掛け銀。快勝だった。敗れた対局でも一手損角換わり、雁木(がんぎ)、横歩取り、角換わりと工夫を凝らし、見せ場タップリのパフォーマンスを演じた。

昨年度は14勝24敗と、1985年(昭60)12月にデビューして以来、棋士人生で初めての負け越しとなった。名人獲得も含めて29年連続で在籍した最上級のA級(プロサッカーJリーグで言えば「J1」)から、1クラス下のB級1組(B1)に陥落した。

あれこれと模索した。「何百局という前例がある形でも鉱脈はある」と見直した。研究を積み、それに自身の対局経験も重ねながら、復活への足掛かりを築いていった。

王将戦の挑戦者決定リーグは、昨年新人王の服部慎一郎五段、A級まで手の届く位置にいる近藤誠也七段の20代の代表2人、渡辺明名人、糸谷哲郎八段、永瀬拓矢王座、豊島将之九段と30代の新旧タイトル保持者と、粒ぞろいの棋士との総当たり戦を6戦全勝で勝ち抜いた。その末に、「ずっと実現できたらと思っていた」という藤井との頂上対決の切符を自らつかんだ。

昨年末に終わった棋王戦も挑戦者決定トーナメント決勝まで進出。今年に入って竜王戦は最上級のランキング1組ベスト4、王位戦は挑決リーグに在籍している。棋聖戦は2次予選を突破し、決勝トーナメントに進出した。王座戦も2予決勝まで勝ち上がり、あと1勝で本戦に進出する。早ければ、1~2カ月後、タイトル戦の挑戦者として戻ってくる可能性もある。

「いろいろな変化や、たくさんの読み筋が出てくるので大変でしたが、非常に勉強になったシリーズでした。自分自身の足りないところを改善して、また次に臨めたらと思います」。

王将戦では過去、故大山康晴十五世名人が80年の第29期に56歳で挑戦者となり、タイトルを奪取。59歳を迎えた82年の第31期になるまで保持した。その大山は90年、66歳で第15期棋王戦挑戦者にもなっている。藤井が史上最年少で数々の記録を塗り替えるのなら、羽生には最年長記録の更新を期待したい。【赤塚辰浩】