タイトル戦に出たらすべて勝つ-。最年少6冠となった藤井聡太新棋王(20)は、20年の棋聖戦で初タイトルを獲得して以降、タイトル戦の出場は13度目となり、失敗なく全てを制した。

「昭和の巨人」、故大山康晴15世名人は初タイトルまでに名人戦で2度敗退。全7冠(当時)制覇した羽生善治九段(52)も初タイトルの竜王を翌年、失冠している。藤井は1度もタイトルを失うことなく、6冠を達成した。まさに無双状態だ。

安定した戦いぶりに師匠の杉本昌隆八段(54)は言う。「序盤、中盤、終盤のすべてにおいて水準が高い。戦い方のレパートリーも増え、付け入るすきを与えていない」。レジェンドたちがぶち当たってきた「失敗」という壁を突き破り続け、結果を残しながら強くなっている。今回の棋王戦では、4局とも角換わり。渡辺が藤井のエース戦法を研究し、「死角」をついてきたが、はね返した。

棋王奪取は藤井の大師匠で、昭和の東海棋界を率いた故板谷進九段の悲願でもあった。藤井の師匠杉本昌隆八段(54)は「棋王戦はその昔、大師匠の板谷進九段が当時の名人含めた歴代の3人の名人に勝ち、挑戦者決定戦で敗れた心残りのある棋戦です。今回の孫弟子の快挙を喜んでおられることでしょう」とコメントした。

板谷九段は81年の第7期棋王戦で大山康晴15世名人、中原誠16世名人、谷川浩司17世名人の「歴代3人の名人」を破ったが、挑戦者決定戦で敗れた。

藤井は今回、棋王戦挑戦者決定トーナメントで豊島将之九段、羽生善治九段、佐藤天彦九段ら「歴代3人の名人」を破り、最後に現在、名人位を保持する渡辺を下し、棋王のタイトルを奪取した。大師匠のリベンジを果たした。タイトル戦での「失敗しない神話」が続く。【松浦隆司】