岩手県初の将棋のプロ棋士として、釜石市出身の小山怜央新四段(29)が4月1日付で四段としてプロデビューする。一昨年、勤めていたリコーの関連会社を辞めて夢を追いかけ、昨年11月から挑んだ棋士編入試験5番勝負に3勝1敗で合格した。棋士養成機関「奨励会」を経由せずになったプロ第1号でもある。そんな同郷の先輩のお祝いに、地元の地酒「南部美人」のPR大使で盛岡市出身のグラビアアイドル、「のぞみん」こと佐藤望美(27)が駆けつけた。【取材・構成 赤塚辰浩】

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「将棋は身近な存在で、人生の一部。長く戦いたいです」。同じ岩手県出身でWBCのMVPに輝いた侍ジャパンの大谷翔平投手(28=エンゼルス)ほどではないが、小山新四段は静かに決意を語った。2月に編入試験5番勝負を終えた。2勝1敗で迎えた第4局で横山友紀四段(23)を下して合格を決めた瞬間、「やっと終わった」という思いがあった。一昨年、会社勤めを辞めてプロへの道を選んだ。約2年をかけ、対戦相手の研究などの準備をしてきた苦労が報われた。

この対局が最もきつかったと振り返る。「負けて五分になったら厳しくなる」という重圧があったからだ。しかも、優勢になりながら緩手が出て、差を詰められた。「自分が指した後に間違いに気付いて、ドキッとしました。耐え難かったです。時間に余裕があったので、冷静になって『まだ可能性がある。最善を尽くそう』と心掛けました」

第1局、当時勝率8割を誇っていた徳田拳士四段(25)戦は激戦を制した。第2局、山形県鶴岡市出身の岡部怜央四段(23)戦は序盤、作戦負け。「自分から崩れないように指したら、好転して勝ち切れた」と言う。連勝し、合格まであと1勝で迎えた第3局狩山幹生四段(21)戦は、相手の徹底した受けにてこずらされた。「沼に引きずり込まれたような感じだったかもしれない。あのタイプは特殊です」

会社を退職後、パソコンを購入。序盤戦の研究のため人工知能(AI)を導入した。アマ大会の成績上位者に与えられるプロ公式戦出場を重ね、勝ち星が増え始めた。昨年9月、10勝以上かつ勝率6割5分以上という棋士編入試験の受験資格を満たした。実家の父にだけプロの道を目指すと宣言し「夢の実現に向けて頑張れ」と背中を押してもらった。母には父から伝えてもらい、弟には事後報告した。

徳田四段には編入試験に続き、竜王戦ランキング戦6組でも勝利。本年度、藤井聡太竜王(20)が2年ぶり4度目の優勝を飾った朝日杯オープン戦の参加を認められ、2次予選決勝まで進出。準決勝では藤井竜王を破った経験を持つ千田翔太七段(28)に勝利。決勝では昨年の竜王戦で藤井竜王に挑戦した広瀬章人八段(36)と渡り合った。もし広瀬八段に勝利すれば本戦トーナメント入りだった。

4月からは、フリークラスに参入する。名人戦への挑戦資格がある順位戦には出場できないが、規定の勝ち星や勝率を挙げれば、5クラスある順位戦最下級の「C級2組」に編入できる。

2005年に特例で編入試験を受けてプロになった瀬川晶司六段(52)は「小山さんなら、すぐにフリークラスを抜けて、C級2組に入れるだけの実力はある」と断言する。瀬川六段と、現在の制度の合格第1号として15年4月にデビューした今泉健司現五段(49)は、フリークラスからC級2組へと上がっている。

「まずはフリークラスを突破したい。今の自分より少し上の目標を設定するタイプですから」

プロになって対局したいのは、師匠の北島忠雄七段(57)と語る小山新四段。勝つことが最大の恩返しとなる。だが、さらにもっと大きな夢がある。「アマ名人を獲得した時に記念対局をして、角落ちで敗れた羽生善治九段(52)と、同じプロとして戦いたい」

藤井竜王が史上最年少6冠を果たした22年度の将棋界で、アマからプロになる夢をかなえた。小山新四段には、新たな世界で戦っていくという並々ならぬ闘志が秘められている。

 

「のぞみん」が東北6県版に再登場した。21年11月、囲碁の第46期新人王戦で初タイトルを獲得した、盛岡市出身の外柳是聞五段(28)の取材以来だ。「将棋、初めてなんです」と笑いながら、小山新四段に先手で質問攻めを仕掛けた。「将棋を始めたきっかけ」から始まり、「釜石に帰ったら食べたい物」など約10分、記者顔負けのツッコミぶり。「好きな女性のタイプ」を尋ね、「優しくて信用できる人。一緒にいて楽しい妹系のタイプ」と小山新四段が返答した時には「女性ファンがざわつくと思います」と切り返した。

将棋の駒の持ち方や並べ方、簡単な詰みなどの手ほどきを受けた後は、おそろいのハッピを着て、地元の銘酒「南部美人」で乾杯した。

 

◆小山怜央(こやま・れお) 1993年(平5)7月2日生まれ。岩手県釜石市出身。釜石高-岩手県立大。小2で将棋を始める。中3でプロ棋士養成機関「奨励会」を受験も不合格。14年学生名人、15年アマ名人、16年アマ王将、18年赤旗名人など、アマ実績多数。「アマ名人」の資格で挑戦した奨励会三段編入試験も不合格。リコーの関連会社に勤務し、21年退社。昨年11月から挑んだ棋士編入試験5番勝負に3勝1敗で合格。4月1日付で四段としてプロデビューする。

 

◆佐藤望美(さとう・のぞみ) 1995年(平7)11月9日生まれ。岩手県盛岡市出身。地元の高校を卒業後、就職のため上京。都内でスカウトされる。きき酒師の資格を持つグラビアアイドル。ミスヤングチャンピオン2018グランプリ。「有吉反省会」などテレビ出演多数。グラビアイメージDVDも9枚リリース。19年春から地元の地酒「南部美人」のPR大使に。153センチ、B83センチ-W58センチ-H83センチ。専門のYouTubeを開設しているほか、ツイッター@nozomisato_、インスタグラムnozomisato__