藤井聡太棋聖(竜王・王位・叡王・棋王・王将=20)への挑戦権を目指す、将棋の第94期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦、永瀬拓矢王座(30)対佐々木大地七段(27)戦が24日、東京・千駄ケ谷「将棋会館」で行われた。

午前10時から始まった対局は、午後7時58分、165手にも及ぶ熱戦の末に先手の佐々木大が勝ち、うれしいタイトル戦初挑戦権を獲得した。4年前の棋王戦では挑戦者決定戦まで進出しながら、本田奎五段(25)に敗れていた。

2日前に思い付いたという相掛かりを、挑戦がかかった大一番で採用した。「実戦で使ったことがなく不安があり、そんなにうまくいっている感じはしませんでしたが、持ちこたえることができました。初めて(タイトル挑戦権を)獲得できてうれしいです」と喜びをかみしめた。

永瀬とは前期棋聖戦の決勝トーナメント準決勝で当たり、敗れた。今期は決勝トーナメント初戦で、2016年(平28)10月に藤井と同期でデビューした大橋貴洸七段を下すと、準々決勝で糸谷哲郎八段、準決勝で渡辺明名人、決勝で永瀬と新旧タイトル保持者を3人立て続けに倒した。

佐々木大は1995年(平7)5月30日生まれ。長崎県対馬市出身。プロ棋士養成機関「奨励会」の三段リーグで2回次点となり、2016年(平28)4月1日にフリークラスでデビューした。翌年2月、「いいところ取りで連続30局以上の勝率が6割5分以上」という条件を満たし、順位戦最下級のC級2組への昇級を決めた。デビュー1年以内での昇級は史上初だった。今回は、このルートで史上初のタイトル戦挑戦者となった。

また、9歳の時には拡張型心筋症を発症。一時、酸素ボンベをつけながら登校していた。棋士への夢を抱いて、同郷のタイトル獲得経験者で、別名「地球代表」と呼ばれる深浦康市九段(51)に弟子入りした。

師匠は、弟子の病状を理解した上で、主治医や佐々木の両親と連絡を取り合いながら、治療とプロ入りへの道をアシストした。今では師弟で九州を巡ったり、棋士仲間とフットサルを楽しむなど、持病はほぼ完治しているという。

今年2月からは15連勝。将棋界では、「いつタイトル戦に出てきてもおかしくない」と称される大器だった。佐々木自身は、「タイトル保持者に比べると、まだ実力が劣っていると思って指していました」。ようやく、ふさわしい舞台に上がってきた。

師匠は藤井棋聖に3勝1敗と分がいい。弟子も2勝2敗と健闘している。藤井対佐々木は、昨年4月に山形県天童市で行われた「人間将棋」と同じカードでもある。その際に、「佐々木殿には、師匠ともども手痛い目に遭わされてござる」と藤井に言わせ、観客を笑わせたほどだった。

ただし、佐々木は冷静だ。「藤井棋聖は最新型に精通しているし、中、終盤の読みの精度と速度が高い。見ている分には楽しいですが、指していると大変」と評する。同時に「厳しい戦いは重々承知しています。フルセットに持ち込めるよう、食らい付いていきたい。思い切りぶつかっていきたい」と闘志を燃やす。

和服は1着も持っていない。タイトル戦も初めて。ただし、両者にとって海外対局が初めてという点だけは同条件になる。

5番勝負第1局は6月5日、ベトナム・ダナン「ダナン三日月」で開幕する。海外対局は、台湾・台北市で19年4月に行われた第4期叡王戦第1局以来、約4年ぶりとなる。

なお、第2局以降の日程は以下の通り。

◇第2局 6月23日 兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」

◇第3局 7月3日 静岡県沼津市「沼津御用邸東附属邸第1学問所」

◇第4局 7月18日 新潟市「高志の宿 高島屋」 ◇第5局 8月1日 名古屋市「亀岳林 万松寺」