テレビ放送を視聴することはできないが、インターネット経由で有料のネット配信動画の視聴やゲームなどに特化したチューナーレステレビの売れ行きが好調だ。テレビ放送の受信機が搭載されておらず、NHK受信料が不要なことから認知度は高まっており、各社は50型以上の大画面化、4Kや有機ELなどの高画質化の新機種を続々、投入し、異業種から新規参入するなど市場は拡大している。

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チューナーレステレビは「チューナーレススマートテレビ」とも呼ばれ、米グーグル社の基本ソフト(OS)を標準で搭載し、インターネットを通じて契約した「ネットフリックス」などの動画配信や、動画投稿サイト「ユーチューブ」を視聴できる。受信機がなく、NHKや民放は受信できないため、放送法第64条で定められたNHK受信料の契約義務はなく、受信料は必要ない。民放については配信アプリを利用すれば視聴することもできる。

チューナーレステレビの元祖とも言えるディスカウント大手「ドン・キホーテ」の販売も好調だ。2021年12月に先行販売した42型(2万9800円、税別、以下同じ)と、24型(1万9800円)は約1カ月で初回生産分6000台を、ほぼ完売した。昨年8月には「お客さまからサイズのバリエーションや高画質なものも欲しいという声があった」(同社広報)ことから高画質・大画面の4K50V型(3万9800円)と、43V型(3万4800円)を追加した。同社では「2021年12月から23年3月末までに累計2万5000台以上を販売した」(同社広報)とした。

ドン・キホーテではチューナーレステレビと薄型テレビを価格面で比較した場合に、テレビ放送の受信機が搭載されていないことから「同型ならば、1万円ほど低価格な設定になっている」としている。同社では「各社からチューナーレステレビが発売されている状況で今後もニーズは高まる」と予測している。

商品の認知度が高まったことで高画質、大画面化も進んでいる。高画質化ではゲオが今年3月に有機ELパネルを採用した4K55型(9万9800円)を発売し、予約受け付け分の300台を10日間で完売した。大画面化ではドウシシャが国内最大級の75型(14万8000円)、65型(9万9800円)を、いずれも配送料込みで昨年11月から発売している。

異業種からの参入も相次いでいる。家具・インテリア、家庭用品小売業の大手「ニトリ」は昨年12月に4K43V型(3万4900円、税別)で発売した。国政政党の「政治家女子48党(旧NHK党)」の立花孝志氏も自身が経営する「株式会社立花孝志」から3月に4K43V型チューナーレステレビ(3万9800円、税込み)で発売から5日間で500台を完売した。

調査会社BCNが4月18日に公表したデータ分析によると、「液晶テレビと有機ELテレビを合算した薄型テレビ市場全体におけるチューナーレステレビの比率は徐々に増加している」としている。電子情報技術産業協会(JEITA)は今年1月、22年の薄型テレビの国内出荷台数は前年比9・7%減の486万6000台と発表した。BCNは3月時点でチューナーレステレビの比率は1・6%としているが、「国内の有力テレビメーカーが参入すれば、市場は本格的に拡大することになるだろう」と分析している。

ネット動画配信や動画投稿サイトの人気が定着し、業界ではNHKが4月1日から導入した「割増金請求制度」もチューナーレステレビ市場の追い風とみるなど、今やニッチな存在から生活家電として定番化する可能性は高そうだ。【大上悟】

■ドウシシャ想定上回る

ドウシシャは国内最大級の4K75型と4K65型の大型画面モデルが好調だ。同社では「高画質化を含めた他社製品との違いを出せた」とし、「最も売れているのは50型で全体の3割を占めますが、いずれも想定を上回る売れ行き」とした。

大画面のチューナーレステレビは法人購入が増えているという。「会社の会議室などに設置されてオンライン会議で動画を映しながら、東京~大阪などの拠点間会議に利用されている」としており、「パソコンにつなぐ同型モニターと比較すると割安感がある」などして新たなニーズに期待している。同社では24型から75型の5機種を発売しているが「チューナーレステレビの認知度は間違いなく上がっている。今後はもっと小型サイズも考えていきたい」としている。

■初回販売分500台完売

政治家女子48党(旧NHK党)の立花孝志氏は3月31日、自身が経営する「株式会社立花孝志」から4K43V型チューナーレステレビ「NHKをぶっ壊すTV」(3万9800円、税込み、送料無料)をオンラインで先行発売し、5日間で初回販売分500台を完売した。現在は同モデルを4万9500円(税込み、送料無料)で予約販売を受け付け中で4月28日までに「700台以上の予約があった」(立花氏)としている。

立花氏は党是であるNHK放送を視聴したい番組だけ視聴可能とする「スクランブル化」が進まない現状をチューナーレステレビの普及によって打開することを目指し、「年内の販売目標は10万台。将来的には100万台」としている。

■NHK 割増金を受信料に加えて請求

NHKは4月1日から「割増金請求制度」を導入した。正当な理由なくテレビの設置後、期限内に受信契約を申し込まなかった人などを対象に受信料の2倍にあたる割増金を受信料に加えて請求できる。総務省が1月に認可したもので申込期限はテレビを設置した月の翌々月の末日までとする。不正な手段で受信料の支払いを免れた人も対象となる。NHKの稲葉延雄会長は4月20日、参院総務委員会で政治家女子48党斉藤健一郎氏から質疑を受け、「現行の受信規約が施行された4月以降に不正な手段により、受信料の支払いを免れた場合や、正当な理由がなく期限までに受信契約の申し込みをしなかった場合に対象となる。それより前にさかのぼって請求することはない」と答弁した。

またチューナーレステレビに関して「放送を受信する機能を有しない設備については放送法64条1項に規定する協会の放送を受信することのできる受信設備にあたらないため、受信契約の必要はない」とした。

◆放送法第64条(受信契約及び受信料)1項 協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならないと定めている。現在、NHK受信料は地上契約12カ月前払いで1万3650円(同6カ月前払い7015円)、衛星契約は2万4185円(同6カ月前払い1万2430円)。