将棋の鈴木大介九段(48)がマージャンとプロ「二刀流」を目指す。11日、都内で記者会見し、今月5日に「日本プロ麻雀連盟」のプロ雀士としての資格を得たと発表した。男性棋士として別の世界でプロとして戦いの場を求めるのは初めて。女流棋士では、元女流王将の石橋幸緒さん(引退)が2007年(平19)から数年、他団体でプロとして参戦した例がある。

「自分の力がどれだけ通用するのか、今からワクワクしています。48歳のオールドルーキーで活躍できる年も限られるでしょうが、勝ちを意識して、トップを目指したい」。鈴木はこう抱負を語った。もともと小さい頃から家族でマージャンを親しんでいる上、4年前には「麻雀最強戦」で優勝。この世界で最高峰のタイトルである「最強位」を獲得した。このころから、プロ雀士との接点もできた。

将棋では1999年(平11)の竜王戦と、06年の棋聖戦で挑戦しているが、タイトルは獲得していない。「初タイトル」を得たことで、マージャンのプロの世界にあこがれた。

今年4月14日、同連盟の森山茂和会長と面接して一発合格。入会に至った。森山会長は、「実力は文句なし。破壊力のある攻撃力の高いマージャンで、常に攻め続けるタイプ。こんな人が少なくなっているなかで、マージャンの世界に入ってくれれば面白くなる」と活躍を期待する。

現在、鈴木は日本将棋連盟の常務理事を務める。来月で3期6年の任期を終える。「退任するにあたり、次のステージとしてマージャンを競技としてやっていきたい。自分の力を試したい」と話した。

今後は将棋の対局との「二刀流」となる。1カ月に1回開催されるマージャンのリーグ戦など、両方とも出られる限りの公式戦に出場する。「マージャンの世界に入ったため、将棋の成績が落ちるというのは、自分のプライドが許さない。これから先、将棋1本になるなかでのマンネリ化が怖かった。マージャンも将棋も刺激になれば」と考えている。

将棋は豪快な攻撃型の振り飛車党。マージャンも破壊力のある攻撃型で、高い点数を常に目指している。どちらも師匠の大内延介九段(故人)譲りだ。好きな手役は、「スピード重視のタンヤオと、点数が必要な時のホンイツ」という。先を読むのが商売の人らしく、「待ちを絞っての読み重視で、ほかの3人の所作なども見ながらカンを研ぎ澄ます実戦派。リードを許している時でも数少ないチャンスをモノにできるよう、トップを常に狙うマージャンをします」。同連盟所属の佐々木寿人(46)や滝沢和典(43)にあこがれる。「佐々木さんや滝沢さんらと、大きな舞台でヒリヒリするような勝負をしたい」と張り切る。

将棋界では師匠のほか、大山康晴十五世名人(故人)、広瀬章人八段(36)らマージャンの好きな人が多い。ほかにもチェスでは羽生善治九段の実力は全国屈指。青嶋未来六段(28)は日本一にもなっている。バックギャモンでは東大卒の片上大輔七段(41)が王位、囲碁の武宮正樹九段(72)が盤聖というタイトルを獲得している。頭脳明晰(めいせき)で読みが鋭く、勝負勘が鋭い棋士にボードゲームは向いているのかもしれない。

マージャンといえば、5年前に「Mリーグ」が発足した。競技マージャンのチーム対抗戦で8チームあり、1チーム4人で構成される。参加選手はMリーガーと呼ばれる。「Mリーグにも参加したい。女流プロなら、(同リーグでも活躍している)伊達朱里紗さんや高宮まりさんに注目しています。戦ったらおそらく打ち負かされると思いますが」(笑い)。

鈴木の師匠、大内九段は本業では棋王を1回獲得したほか、将棋のルーツの研究家として知られた。スキーは1級指導員の資格を持ち、登山も好きな「文武両道タイプ」だった。弟子の塚田泰明九段(58)は王座を1期獲得した。飯田弘之七段(引退=61)は人工知能(AI)の研究の第一人者であり、石川県にある北陸先端科学技術大学院大学の副学長を務める。大内一門からまた1人、「異能棋士」が誕生した。【赤塚辰浩】

◆異能の棋士、他にも 将棋界には、ボードゲームの世界で異能の棋士がいる。チェスの世界で、羽生善治九段(52)は全国屈指の実力を持つ。青嶋未来六段(28)は日本一にもなっている。バックギャモンでは、東大卒の片上大輔七段(41)が2005年(平17)に王位を獲得。囲碁で名人獲得経験がある武宮正樹九段(72)も同年、盤聖というタイトルを獲得した。このほか、羽生より先に将棋の名人を通算5期獲得した森内俊之九段(52)は、テレビのクイズ番組で優勝した経験がある。

頭脳明晰(めいせき)で、勝負勘が鋭い棋士はボードゲームやクイズなど、読みを必要とされるジャンルでの勝ち負けに向いているのかもしれない。

◆プロ雀士 日本には競技麻雀のプロ団体が「日本プロ麻雀連盟」など複数ある。「日本プロ-」は1981年(昭56)に設立。プロテストを定期的に実施し、受験資格は満18歳以上40歳未満の男女(高校生不可)。そのほかに、理事会の承認を得た実力者もプロになれる。