子どもや教員、学校の数が減少し、学校の運動部活動の維持が厳しくなりつつあります。さまざまなデータは想像以上に厳しい現状を示しており、現場では危機感が強まっています。スポーツ庁は地域クラブへの移行などを打ち出し、日本中学校体育連盟は今年度から中学校体育大会への地域クラブの参加を認めました。人口減少が加速する中、日本の子どものスポーツ環境はどうなっていくのでしょうか-。
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少子化は想定以上のペースで加速しています。厚労省の国立社会保障・人口問題研究所は4月に発表した日本の将来推計人口で、総人口は56年に1億人を下回り、70年には今の3割減の約8700万人になるとの見通しを示しました。22年の人口動態統計では出生数が77万747人で、初の80万人割れ。22年国民生活基礎調査では、18歳未満の児童がいる世帯数は991万7000で、初めて1000万世帯を割り込みました。
当然、子どものスポーツをめぐる状況も一層深刻化しています。文科省の学校基本調査で22年度と10年前の12年度の中学を比べると、22年度の中学校の数は1万12校(12年度は1万699校)、中学生は320万5220人(同355万2663人)、教員数は24万7348人(同25万3753人)といずれも大幅減。15年後の38年には、中学生が250万人台との推計もあります。
スポーツ庁によると、中学の1運動部当たりの参加人数は、13年度の19・4人から21年度は16・4人に減少。運動部への参加率も、10年度の65・83%から21年度には58・1%に。“帰宅部”や、学校外のクラブで野球やサッカーをやっている生徒も増えているそうです。19年度運動部活動改革プラン成果報告書では「中体連、高体連、高野連の加盟人数は、今後30年間で大きく減少する。1校当たりの加盟人数が30年後にはピーク時の半減以上となる団体競技が複数存在。特に中学男子の軟式野球、中学女子のソフトボール、高校男子のラグビーなどでは、30年後には1校当たりの人数が1チームの形成に必要な人数を下回る」などと指摘しています。
日本中体連の調査をみると、男子の軟式野球の場合、加盟校数が12年は8886校→22年は7964校、生徒数は12年26万1527人→22年13万7384人。女子ソフトボールは12年が2650校・5万449人→22年が1919校・2万7406人。団体競技を中心にほかでも傾向は同じです。野球やサッカー、水泳、新体操などはクラブなどが普及しており、全体の選手数などを一概に判断できませんが、状況は確実に変化しています。
部員不足のため、複数の学校で活動する合同チームも、各競技で増加しています。例えば軟式野球では、12年は全国で122だった合同チームが22年は889に。ソフトボールも12年の57から22年は207に急増しています。3校、4校による合同も珍しくありません。
東京都中体連野球部の担当者は「合同チームはこの10年くらいで増加してきました。今年度は約40チームが参加しており、100校くらいが部員不足とみられます」と指摘。状況の悪化とともに、実施条件も徐々に緩和しているそうです。例えば、以前は部員9人以上の学校は合同活動ができませんでしたが、今は9人以上の学校と9人未満の学校の合同を認めています。同ハンドボール部の担当者は「参加校数は最盛期は男子が100超、女子が80くらいでしたが、今は男子50、女子30くらい。ない区もあります」などと説明します。同ラグビーでは今年度の2、3年生の大会では、18チーム中7つが合同チームです。
もちろん、都市部と地方など地域によっても、学校部活動をめぐる状況は大きく異なり、課題もさまざまです。
WBCで侍ジャパンを率いた栗山英樹監督は、中学の野球部の激減などの現状をみて「野球のあり方に危機感を持っている。ちゃんと考えなきゃダメ」と野球の将来への不安を口にしています。
高校ラグビーでは昨年末、倉吉東の全国大会出場が鳥取県予選で1試合も戦わずに決まるという極めて異例の事態が起き、話題になりました。県予選には3校がエントリーしましたが、他校が試合当日に15人をそろえられなかったためです。倉吉東も花園では控えなしの15人で戦いました。全国高体連の22年度調査では、ラグビーで登録数が9校以下だった県は14に上りました。日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事からは「高校生の減少は大きな課題。協会でも議論しており、できることをすみやかにやっていく」との発言がありました。同協会は昨年、地域クラブで活動したり、部員が15人に満たないチームの高校生のための交流大会も開催しました。
学校部活動は、どんな生徒でも、気軽にお金もあまりかからず、スポーツを経験できる貴重な場所ですが、歯止めがかからない人口減少の中で、その維持は厳しくなっています。【久保勇人】