神社やお寺の参拝証としてもらう「御朱印」の派生型が大流行している。埼玉県では行田市と近隣5市1町が連携して、東日本初の「御墳印」の販売を今年6月から始めた。同県は数多くの古墳があり、古代へのロマンをそそる。将来は他県との連携も視野に入れ、観光施策として試みる。また、日本航空(JAL)では昨年9月に「空の御朱印」として、「御翔印」を空港で販売し始めた。このほか、千葉県内で発行される「御城印」は100以上を数えるなど、隠れた人気となっている。

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「御墳印」は上々の滑り出しを見せている。6月の発売以来、2カ月ほどで約3000枚(1枚300円)、「御墳印」(1冊1500円=いずれも税込み)も250冊以上売れている。行田市14カ所、熊谷市と東松山市各2カ所、羽生市と深谷市、久喜市、吉見町で各1カ所の計22カ所の古墳でスタートした。

旗振り役となった行田市には、「稲荷山古墳」など9基の古墳を有する「埼玉古墳群」など多くの古墳が点在。歴史好きな人なら、「稲荷山古墳出土の鉄剣」について聞いているだろう。3世紀後半から4世紀にかけ、「大和政権」(大和朝廷)の勢力がこの地に及んでいたと推測される文字が刻まれている。また、県内には約3100基の古墳があるとも言われている。歴史ロマンを前面に押し出した。

同市の職員が2年ほど前、愛知県内3カ所の古墳の「御墳印」が商品化されているのを見つけたのが、商品化へのきっかけになった。行田市と埼玉県の職員が近隣の自治体に出向き、5市1町が趣旨に賛同した。

世の中、御朱印だけではなく、各地の宿場町を巡る「御宿場印」、ローカル鉄道に乗った証しとなる「鉄印」、船に乗ってもらう「御船印」などが出ている。コレクターがこれを求めて、各地を回遊する観光モデルが確立されている。

行田市の場合、観光の看板は「忍城(おしじょう)」と伝統地場産業である「足袋」、ジャガイモとネギ、ニンジン、おからが入った銭形のソウルフード「ゼリーフライ」程度。2012年(平24)に公開された映画「のぼうの城」で、豊臣秀吉の小田原征伐(1590年)の際、命令を受けた配下の石田三成の攻めに北条方として唯一持ちこたえた難攻不落の忍城が注目された。17年のTBS系ドラマ「陸王」では、同市内の足袋製造会社がランニングシューズを開発して成功するという物語の舞台となった。

「散発的な盛り上がりではなく、教育旅行や社会科見学的な要素も含め、市内に絶えず誘導することに大きな意味がある。京都や日光、札幌といった有名観光地には人気、知名度、動員力では遠く及ばないから、なおのこと興味としての切り口を提供していく必要がある」。行田おもてなし観光局の富山紀和事務局長(54)はこう強調する。

地元の人たちにとってはあまりに身近すぎる存在かもしれないが、古墳という特定のテーマは、底知れない魅力を秘めている。今年4月、埼玉古墳群の前にオープンした観光物産館「さきたまテラス」では、古墳にあやかった「古代米カレー」をはじめ、関連グッズも販売されている。話題を提供し続け、同じ埼玉県内のほかの市町村や、近隣他県も巻き込んでいく。「連携が広がりを見せ、オリジナルで注目してもらえればいい」(富山事務局長)。独自の観光資源は、「御墳印」にとって追い風になる。【赤塚辰浩】

◆御朱印 将軍や大名、領主などが文書に朱肉で押した印。神社やお寺で授受される「参拝証」でもある。13世紀前半には存在していたという。もともとは、法華経の礼状にお経を納める際の受付印だったとされている。

■「御翔印」 JAL発売、秋には第3弾の離島シリーズ検討中

JALが空港を拠点とする地域活性化を目的に発売した「御翔印」(1枚350円)が文字どおり、あっという間にはばたいた。昨年9月、新千歳(北海道)、羽田(東京)、中部国際(愛知)、福岡、那覇など11空港でスタート。当初各4000枚を用意したが、空港によっては1週間以内に完売するなど好評を博した。今年3月には、北海道地区の釧路、女満別などから九州の宮崎、鹿児島まで27空港で第2弾も出した。

コロナ禍で旅客需要が落ち込むなか、「人の流れを創出するには何ができるのか?」とアイデアを出し合い、「空の御朱印」が浮上した。大空を自由に飛び回る「翔」の文字に掛け合わせて、御翔印とした。対象となる空港や売店などに並べられている。「鶴丸」マークの「御翔印帳」(1冊2000円)もある。

第3弾として秋には離島シリーズも検討中で、JAL便が就航する国内の空港への拡大、海外空港への展開、御翔印をテーマにしたツアーも企画しているという。

■「御城印」 全国初、千葉で“100”オーバー

千葉城郭保存活用会が発行する「御城印」は100を超えた。一昨年7月、地域活性化や教育などへの活用を目指して始まった。同県内には中世時代、1500以上の城があるとされる全国屈指の「城郭県」。各都道府県で発行される「御城印」が、3ケタを数えるのは全国初という。

各種「御朱印」は通常、白の台紙に筆文字、朱肉の押印がなされている。こちらの「御城印」はフルカラーで手の込んだ表の図柄と、裏に城のあらましやデザインの説明などが書かれている。1枚300円という廉価性と、芸術性の高さが特長にもなっている。

この会の小室裕一代表(61)は、「房総半島をはじめとする丘陵地帯は、米などの農作物、材木、砂鉄、馬といった物資の供給源でもあった。それを守るため多くの領主が群雄割拠し、土をかき上げたり空堀を造るなどして、多くのとりでが今の千葉県内に築かれていた」と説明している。