あぁぁぁ~。期待に膨らんだ気持ちが悲鳴にかき消された-大相撲東前頭15枚目の熱海富士(21=伊勢ケ浜)が24日の千秋楽、優勝決定戦の土俵に立ったが静岡出身力士としての初優勝はならなかった。

熱海市福祉センター3階にはプロジェクターが設置され急きょパブリックビューイング(PV)が実施されたが、11勝4敗同士の決定戦では大関貴景勝(27)のはたき込みに屈した。

PV会場に設置された100席のイスは満席。配布された赤いバルーンをたたきバンバンバンという打撃音で充満した。勝負は一瞬で終わった。「それでも、大関かよー」「そりゃないよ」との恨み節からすぐに「よ~く、やった」「次がある」「これからも応援するよ」と温かい声援に替わっていった。

今年5月に歌手を引退した橋幸夫さん(80)も最前列で必死に応援した。熱海市に住んで5年。「熱海富士は出世がはやすぎる。まだ、私がチェックできていないんだよ」と話しながらも「誰にも誘われてなかったけどPVに来たよ。こんな長細い風船をたたく側になるなんて思わなかった。でもさ、見ているこっちは緊張するけど、こりゃ、楽しいね」と人生初PVを楽しんだ。

PV会場では本名(武井朔太郎)で呼ぶ市民が多かった。相撲好きで地元商工会の主導する後援会にすぐに入会した市内に住む大西義光さん(74)は「さくたろうは、偉ぶらないし、熱海の街中でも気軽に飲食店に出入りしているんだよ」と自慢話のように語り「みんなね『さくたろう』とか『さく』がとか話題にできるお相撲さんなんですよ。今回はよくやった。よくやったよ」と言葉をかみしめるようにつぶやいた。

熱海富士の小学生から主治医でもある渡辺耳鼻咽喉科の渡辺修一院長(65)は「朔太郎はよくやった。よくやったよ」と子どものころから撮りためた熱海富士との2ショット写真を携帯電話の画面で再生しながら、うっすらと瞳の涙をぬぐった。

熱海市出身の熱海富士の活躍で国技の相撲を通して市民が熱を入れて応援した様子を間近に見た斉藤栄市長(60)は「熱海市の子どもは当然あこがれを持ちますよね。相撲の普及や強化はすぐにはできないけど」と腕を組んで「熱海ならビーチ相撲とかできるかなぁ」とポツリ。画面に映し出された熱海富士が花道を下がっていく。その悔しそうな表情を見た斉藤市長は静かに拍手を送っていた。【寺沢卓】