ハロウィーン期間中は渋谷に来ないで-。今年もハロウィーンの季節が近づく中、毎年大勢の人が集まりトラブルも絶えない渋谷の街をかかえる東京都渋谷区が、強いトーンで来街自粛を要請した。今年はコロナ5類移行後のインバウンド復活も重なり、外国人を中心に例年以上の6万人超の人出が見込まれるためだ。世界から愛される渋谷の街が、なぜこの決断に至ったのか。長谷部健区長の苦悩を探った。【中山知子】
7割外国人
渋谷区が今年のハロウィーン対策を初めて公表したのは、9月12日の長谷部健区長の記者会見。長谷部氏は「ハロウィーン目的で渋谷に来街される予定がある方には、ぜひ考え直してほしい。渋谷はハロウィーンの会場ではない」と訴えた。長谷部氏は10月5日、都内の日本外国特派員協会でも会見。最近のハロウィーン時の渋谷は「ざっとみた感じで6、7割が外国人」との事情があるためだ。
長谷部氏は「ハロウィーンが多くの人に親しまれていることは十分に理解している」としながらも「昨年までは『マナーとモラルを持って楽しんでほしい』という趣旨のメッセージを伝えてきたが、今年は『渋谷はハロウィーンイベントの会場ではない』ということを世界に明確に伝えたい」と述べ、昨年の姿勢を一変。「ハロウィーン期間は渋谷に来ないでほしいという発信をすることはつらいが、安全を第一に考えたい」と訴えた。
条例制定も
区がここまで危機感を強めるのは(1)インバウンド復活(2)路上飲酒の激増、が主な理由だ。新型コロナウイルスが今年5月に5類に移行後、外国人観光客の来日が増加。区は今年のハロウィーン中の渋谷駅周辺の人出を、コロナ禍前のピーク(19年)の4万人を上回る5~6万人かそれ以上と見込む。昨年のハロウィーン時には、韓国ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で約160人が死亡する雑踏事故が起きた。渋谷でもスリや痴漢、けんかなどのトラブルは起きている。雑踏事故発生やトラブル急増を防ぐには、踏み込んだ対策が不可欠だったという。
さらに深刻なのが(2)の路上飲酒の増加だ。渋谷では現在、センター街などでの路上飲酒が常態化。区は19年、ハロウィーンや年末年始の渋谷駅周辺での行動を規制する条例を制定し、路上飲酒や放尿などの迷惑行為を禁じている。だが、今年5月以降、観光客らの路上飲酒は増加傾向に。危機感を強めた区は8月30日に「迷惑路上飲酒ゼロ」を宣言。9月以降、区が委託した警備員による毎晩のパトロールが始まっている。
外国人観光客は条例を知らない可能性もあり、区は駅周辺の路上飲酒が禁止されているとの周知を今後強化する。観光庁にも情報発信を要請している。
さまざまな混乱は「ハロウィーン=渋谷」のイメージが定着していることも一因だ。長谷部氏は、過去に渋谷の街や渋谷駅の「封鎖」を検討したこともあると明かしたが「区の権限では到底、できない」。人流を少しでも減らそうと、近くの代々木公園に人を誘導する対策も取ったが効果は出なかった。渋谷~新宿間のパレード実施を模索したこともあるが、環境が整わず断念。「自分の持ち場で、できることを工夫する」という選択肢を選ぶしかない現実もあるようだ。
「映え」意識
近年の渋谷のハロウィーン風景について、「仮装している方より、見に来ている方のほうが増えている。当初のハロウィーン感から内容も質も変わった」と分析する。スクランブル交差点やセンター街での写真撮影という「映え」を意識し、渋谷でなくてはならない観光客が多いのも、来街者増加の一因とみている。
地元区民からは、さらに厳しい対応や、ルール違反者に罰則や罰金を課すよう求める声もあるが、現在の条例では罰金を課す規定はない。長谷部氏は「条例で過料(罰金)をとることには課題も多い」と話す。一方、渋谷で複数の人に話を聞くと「自粛」に肯定的な声はわずか。「楽しみ方はそれぞれ自由」(10代女性)などの意見も聞かれ、区側の対応がどこまで功を奏するか見通せない。
長谷部氏は「ハロウィーンを否定するつもりはない。楽しむことはいいが、人の迷惑になることは許されない。うまくいくか、いかないか(可能性は)半分半分です」と話している。
◆渋谷区のハロウィーン期間中の対応 条例に基づき、10月27日午後6時から渋谷駅周辺での路上飲酒が禁止となる。ハロウィーン翌日の11月1日午前5時まで続く。区側は28日から昨年比5割増の警備員300人を配置。また昨年から倍増した150人以上の区職員もパトロールに回る。駅周辺のコンビニなどの店舗には酒類販売自粛も要請、了承してもらったという。
◆渋谷とハロウィーン ハロウィーンはもともと、カボチャの置物を飾ったり、仮装姿の子どもたちが近所の家を訪れ、お菓子をもらう風習がある。一方、日本では若者や大人のコスプレーヤーが街に集結。「ジャパニーズ・ハロウィーン」として海外でも人気となり、日本を代表する渋谷に人が集まるようになった。
渋谷のハロウィーンが混乱し始めたのは14年ごろから。この年はスクランブル交差点に「DJポリス」が投入され、ごみの散乱や飲食店のトイレ被害なども問題に。渋谷区は翌年、カボチャの特製ごみ袋配布などの対策を講じたが、状況は年々エスカレート。18年には直前の週末に、センター街で軽トラックが群衆に横倒しされる事件が発生し、約1カ月後に暴力行為法違反(集団的器物損壊)の疑いで4人が逮捕された。18年は期間中、スクランブル交差点周辺に、のべ30万人以上が訪れたとされる。こうした流れが路上飲酒などを禁じた19年の条例制定につながったが、今年は再び混乱が懸念されている。
■渋谷センター商店街振興組合相談理事 小野寿幸さんの話
渋谷ハロウィーンのあり方に「物言い」を続けてきた渋谷センター商店街振興組合の前理事長で、現在は相談理事の小野寿幸さんは、区の来街自粛要請について「遅いとは思うけれど、僕たちが道をつけてきたことを区も感じ取り、区長もそういう気持ちになってくれたならうれしい」と話す。小野さんは「自分たちの街は自分たちで守る」と、03年に「渋谷センター街パトロール隊」を結成。活動は20年に及ぶ。ハロウィーン時の混乱がエスカレートした18年には「これは変態仮装行列だ」とピシャリ。区に先駆け、来街自粛も呼びかけた。街を現場で守ってきた自負があるからだ。
2年前のハロウィーン当日に京王線車内で起きた乗客刺傷事件の犯人が事件直前に渋谷にいたことが分かっており、いつ不測の事態が起きるか分からない。小野さんは、路上飲酒などを禁じた区条例に罰則がないことに触れ「過料を取ったほうがいい。ペナルティーがないから迷惑をかける人が出てくる」と指摘した。

