女流囲碁界に37年ぶりの姉妹で同時タイトルホルダーが誕生した。

第27期ドコモ杯女流棋聖戦3番勝負の第3局は5日、東京・市ケ谷の日本棋院で打たれ、挑戦者の上野梨紗二段(17)が最年少タイトル保持者の仲邑菫女流棋聖(14)に中押し勝ち。対戦成績2勝1敗で、初タイトルを獲得した。初手から1手30秒、1分単位で合計10回の考慮時間がある早碁戦。233手までで黒(先手)番の上野が押し切り、初の10代同士のタイトル戦挑戦手合を制した。姉の上野愛咲美(あさみ)女流名人(女流立葵杯=22)とともに、同時期でのタイトル保持者となった。3月に韓国に移籍する仲邑の初防衛はならなかった。

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ほおを紅潮させた上野は、初戴冠に放心状態だった。「タイトルを取れて、びっくりしています」。終局後の会見では素直に話した。同じ19年デビューの仲邑を相手に序盤から厳しくぶつかっていった。相撲でいえば、立ち合いから両前みつをガッチリつかんで頭をつけ、一直線の電車道。姉の言葉を思い出しながら盤に集中した。「形勢がいい時はもっと厳しく打て」。攻撃の手を緩めず、押し切った。

シリーズ前まで、仲邑には6戦6敗。7戦目の第1局も完敗だった。「厳しいかな」と思った。そこからしっかり巻き返した。「自信につながる結果だと思います」と笑顔を見せた。

昨年9~10月のアジア大会囲碁女子団体戦で銅メダルを獲得した。3人1組のチーム編成のうち、すでに内定していた藤沢里菜女流本因坊(25)と姉の2人とは違い、上野は代表決定戦で牛栄子扇興杯(24)に勝ち、代表権を得た。世界屈指の実力を誇る中国、韓国のトップクラス棋士と戦い、「もっと上を目指したい。もっと実力をつければ負けない」と痛感した。

日本棋院の小林覚理事長(64)は言う。「梨紗さんは、アジア大会で代表に選ばれたことは大きな自信になる」。その言葉どおり、昨年10~11月の女流本因坊戦5番勝負で藤沢とフルセットの接戦を演じた。師匠の藤沢一就八段(59)も「タイトルを争える位置にある」と見ていたように、女流棋界のトップ棋士に台頭してきた。

姉妹での同時タイトル保持は86年8月から同11月まで、妹の楠光子八段(引退=84)と姉の杉内寿子女流鶴聖(現八段=96)以来、37年2カ月ぶりとなる。上野は「すごいことかなと思います」。女流棋聖戦第2局を勝った翌1月26日、藤沢一門は後援会が発足したばかり。応援してくれる人たちに、発足第1号のタイトル保持者として朗報をもたらした。【赤塚辰浩】

◆上野梨紗(うえの・りさ)2006年(平18)6月24日生まれ、東京都中野区出身。藤沢一就八段門下。4歳で囲碁を始める。17年にタイで行われたワールドユース選手権ジュニアクラス(12歳以下)で3位。19年4月、12歳9カ月でプロデビュー。23年には49勝19敗で年間最多勝。同年、女流本因坊戦で初めてタイトルに挑戦した。棋風は、正確な読みを武器にするオールラウンダー。17歳7カ月での女流タイトル初獲得は5番目の年少記録。